青い春の音
作者/ 歌

第8音 (9)
「うん、私はそのほうが嬉しいかも。
荻原先輩がよければの話だけど」
「僕も全然嬉しいよ。じゃあ悠って呼んでも
いいのかな?」
「うん!じゃあ私も日向で」
「よし、これでみんな同等でみんな
仲間だな!」
「俺はもちろん入っていないだろ?
バカ仲間には」
空雅が満足そうに頷いたところに、
お決まりの築茂の刺々しい一言。
「あぁ?誰がバカ仲間だって?
音楽仲間に決まってるだろ。それに
たとえバカ仲間だとしてもお前も
しっかり入れてあるから心配するな」
「ふっ。お前なんかと同じにされても
迷惑な話だ」
「あーはいはい!そこまでー。ほら、
まだカラオケの話終わってないでしょ」
築茂と空雅の口喧嘩が始まろうと
していたところを煌、尚且つ、お母さんが
止めに入った。
「俺、お母さんで決定なんだね……」
「あれ、聞こえてた?お父さんは築茂かなと
思っていたんだけど、築茂も子供だから
お父さんは日向かもね」
「え、僕?」
「日向がお父さんかよ!俺はどうなるんだ?」
「大和はお父さんの不倫相手?」
「きゃー!お父さん不倫なんてしてたの!?
信じられない!私という妻を置いといて!」
「ち、違うんだよ母さん。これには
深いわけが……」
「おいごらぁ。勝手に茶番を始めるな!
俺の役をもっとましなものにしろよ!」
私の無茶ぶりに煌も日向も難なく
乗ってくれて、どっと笑いが起こる。
「って言ってもなぁ。玲央は完璧に猫でしょ?
じゃあ大和はバカ三兄弟の二男?」
「長男は築茂で三男が空雅だね」
煌のご名答の通り。
「バカがこんな難しい本を読むわけないだろ」
「うわぁ自分で勉強できますアピールとか。
ナルシストだったんだー」
「悠、包丁を貸してくれ」
「そ、それだけは勘弁!」
「まぁ築茂はバカだよ。勉強ができないのが
バカなわけじゃないし勉強ができるから
頭いいわけでもないからね。
ちなみにここにいる全員、バカ。確定」
そう自信満々に言うと。
お前が一番バカだよな、という視線を
寝ている玲央以外全員から受けました。
図太い視線に耐えられなくなって、
わざとらしい咳払いを一つ。
「ごほんっ。えーと、それでカラオケだっけ?
うん、超楽しみだねー」
「全然楽しみに見えませーん」
さすがに棒読みのセリフにバカすぎる
空雅にも気付かれてしまったようだ。
「悠の気持ち、分かるような気がするよ」
「はっ!?煌まで何言ってるんだよ!」
「絶対に楽しいんじゃね?何がそんなに
嫌なわけ?」
空雅は叫び、大和はまだ冷静に
質問を投げかける。
さすが二男と三男じゃ差がありますねー。
「よぉぉーっく、考えてもみなよ」
すると空雅と大和だけ眉間にしわを寄せて
首を傾げた。
他の3人は分かっているみたい。
「7人でカラオケ、まぁおそらく玲央は
寝ているだろうから6人とする」
「ふむふむ」
「大体1曲5分だとすると30分でようやく
1曲歌えるということ。1人1時間の料金は
場所にもよるけど一番安いところでも
300円。1時間に2曲しか歌えないのにだよ?」
「……まぁ」
「しかも!ドリンクバー代にご飯も頼むとする。
男が6人もいるんだからそれはそれは
かなりの量を食べるでしょ?」
「………」
「まぁお金は割り勘でもなんでもいいかもしれない。
でもね、そこには落とし穴がある」
「ん?」
「この7人の中に突然、意味の分からない
言葉を発するやつが出てくる」
「う、宇宙人!?誰だ!」
「割り勘すればいいものを、ロシアンルーレットの
ピザかタコ焼きを頼んでそれに当たったやつが
全額奢り!とか言い出す、バカがいるんだよー」
「あぁー分かった分かった」
「大和は分かったみたいだね。空雅、お前しか
いないんだよ。絶対にはちゃめちゃになる」
「………」
あはは、この表情からすると本当に
やる気でいたみたいですね。
みるみるうちに顔が青ざめていくのは
悪魔のような5つの笑みのせい。
「な、なんでだ!!どうしてばれたんだ!」
「お前の考えることなどお見通しだ。
そんなくだらない遊びに俺は付き合ってられない」
「まぁ確かに俺たち大学生は結構
忙しいからね。高校生だって大変なんじゃない?
特に日向は来年受験でしょ?」
「うん、そうだね。まだ大丈夫だけど」
心優しい日向はちょっと空雅が
気の毒みたい。
甘い、甘いよ、日向。
「カラオケは何か本当に嬉しいこととか
お祝いとかするときでいーんじゃない?
歌を歌いたければ、ここで歌えばいいし」
「ここで!?」
「うん。CDだって結構あるし、そのCDには
大体カラオケ用の音源がついてるじゃん。
防音もしてあるから近所迷惑にもならないよ」
「悠の家ってやっぱりすごいのな……」
さらっと言った言葉がそんなにすごかったのか、
空雅は目を輝かせ、大和は苦笑い。
あ、そういえば。
「歌っていえば……玲央!玲央、めっちゃ
歌うまいからね!?やばいよ?」
初めて出会った時の『Amazing grace』を
思い出して叫んだ。
「そういえば前に言ってたよな」
「何の話?」
大和に煌が興味深々に問いただすと、
それに大和が簡潔に話してくれた。
「それ、聞いてみたい!ね、今すぐに
聞かせてよ」
「僕も煌と同じ意見だな」
「まぁ聞いてやってもいい」
「悠!聞かせてくれよ」
煌、日向、築茂、空雅から期待の眼差しで
煽られ、ちらっと玲央を見る。
するとそのタイミングを見計らって
いたかのように、玲央がむくり、と
体を起こした。
私と同じように全員が玲央に目をやる。
しばらく誰も何も言わずに玲央を観察すると、
玲央はぼーっと宙を見つめて。
ゆっくり私たちのほうを見た。
「……玲央、おはよう」
「ん」
玲央からは絶対に口を開かないことを
しっていた私から言葉を投げかけた。

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