青い春の音
作者/ 歌

第5音 (5)
そして気付けば、帰りのHRが終わっていて、
いつものように人がばらつき始めた。
クラスメイトたちと挨拶を交わして、
携帯を確認する。
休み時間のうちに煌とメールの
やり取りで、待ち合わせ場所はこの前の
カフェになった。
私は方向音痴でもないし、
一度行った場所は決して忘れない。
車で迎えに行こうか、と言われたけど
やっぱり人の車にはあまり
乗りたくないから。
この時、つくづく方向音痴じゃなくて
よかったと自分を褒めた。
席を立って、出口に向かっている途中、
ちらっと視界に入ってきたのは。
私をさきほどから凝視している空雅。
分かってはいたけどいちいち気にしていたら、
電車に乗り遅れるし気付かないふりを
していたんだけど。
あまりにもすごいから、思わず
そっちのほうに目が行ってしまった。
いつ見ても空雅の目力って
怖くないのに逃げられないよね。
一度出口に視線を逸らして、
足を前に進めようとしたところを。
「………あの、通りたいんですが」
「嫌だと言ったら?」
うわぁ、何でこんなに不機嫌
なんでしょうか?
ってか最初に会った時の築茂の
目に見えてきちゃったよ。
「嫌だは嫌です」
「嫌だの嫌だは嫌です」
「嫌だの嫌だの嫌だは嫌です」
「嫌だの嫌だの嫌……」
いえーい、今何回目か分からなくなって
言葉に詰まったぜ!
作戦成功!
お互い睨み合いながら黙った、が
すぐにどちらともなく噴き出した。
「やっべぇ!やっぱお前頭いいなぁ」
「私を誰だと思ってるんですか。
少なくともあなたよりは0.3倍
いいですから!」
「いやいやいや。0.13くらいの差だろ」
「私の視力っていくつだっけなぁ。
0.2くらい?」
「俺はたぶん1.5だな。へっ!勝った!」
あーなんだろ。
今めっちゃ嬉しくてたまらない
んですけど。
空雅とこんなやり取りをしたのは
日にち的にはあまり立ってないけど、
その中でいろんなことがあったから
すごく久しぶりに感じる。
それと同時に、またこんな
バカのやり取りができて……よかった。
「やっぱり悠はそうでなくっちゃ!」
「それはこっちのセリフだしー。
ってか何で睨んでたんですか」
「あ、そうそう。いつも最後まで
残っているのに携帯いじりながら
帰ろうとしていたから誰かと
待ち合わせでもしてるのかと」
「え、あんたってそこまで頭
よかったっけ?」
「はっ!?図星なのか?」
「うん、まぁ。わー今日太陽でも
降ってくるんじゃない?」
「お!そしたら太陽の鑑賞大会でも
しようぜ!……じゃなくて。
まさか男と待ち合わせか?」
「うわぁ、本当に今日は何が
降ってきてもおかしくないね。
どうしてそこまで分かるんですか」
「マジかよ……」
あれ、突っ込んでくれないの?
突っ込みよりも落ち込みのほうが
大きかったみたいで、顔を
引きつらせている空雅。
何をそんなに落ち込んでいるのか、
逆にこっちが引くよ。
「正確には男たち、だけどね。
それのどこに私を睨む要素が
含まれているのか、簡潔に
お答えください」
「はい。1、神崎悠に男の噂は
全くないから。2、神崎悠が好きだから。
3、神崎悠のことは何でも知りたいから。
4、神崎悠の周りにいる男を
排除したいから。5、神崎悠が好きだから」
うん、2と5の違いが全く
分からないよね。
どさくさに紛れて告白してるよね。
「月次空雅くん」
「はい」
「ここはどこでしょう?」
「ここは日本です」
「どこの上に立っていますか?」
「シューズの上です」
「シューズはどこで履くものですか?」
「下駄箱です」
「下駄箱がある施設をなんと言いますか?」
「アイドンノウ」
だめだこりゃ。
こんなやり取りをさっきっから
教室にまだいた生徒だけではなく、
2つの出入り口から野次馬たちが
うりゃうりゃい見てるんです。
この状況を何とかしなければ
また変な噂がたってしまうじゃない。
「では教えて差し上げるので、
下駄箱に行きましょう」
「ラジャー」
バカはバカなりにきちんと
考えているんだからね!
分かったか、野次馬共め!

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