青い春の音
作者/ 歌

第5音 (1)
築茂に簡単なメールと
他のメールに適当に返信を終えて、
テーブルの上にあった
食器を流しに運ぶ。
素早く洗って時計に目をやった。
思っていたよりもまだ、
時間はたっていなくて8時。
この時間帯から私は行動力が
かなり上がる。
今日は。
光に包まれる音でも
聞きにいこうかな。
っていうのは、家から
車で30分ほどにある沖縄では
夜の遊び場で人が賑わう
アメリカンビレッジ。
観覧車がシンボルとも言えて、
アメリカの風潮で溢れている。
飲食、洋服、カラオケ、
ゲームセンター、映画館など
幅広い店がたくさんある。
でも私が一番好きなのは
海沿いにある公園。
静かな海も好きだけど
ちょっといかつい音楽が
遠くで聞こえて。
人の笑い声や普段聞きなれて
いない音たちを感じながら
見る海もたまには、いい。
最近忙しくて行ってないし、
特別やらなきゃいけないことも
ないから行ってみよう。
そうと決まればすぐに代行に
電話をかける。
もちろん私は未成年で
車なんて運転できないから、
お金を払って代行に
頼るしかない。
早く18になりたいって
常に思っているんだよね。
住所を言って、30分後に
来てもらうように頼んだ。
その間に着替えてメイクをし、
準備を整える。
お財布の中身を確認すると
何故か、万札の束が。
あまり持って行っても
私はほとんどお金を使わないから
1枚あれば十分。
行き帰りの代行の料金
だけにしか消えないだろう。
ごっそりと札束を抜き出して
封筒に入れ、棚の中にしまった。
約束の時間にしっかり
代行は到着してくれて、
車に乗り込んだ。
目的地に到着して帰りも
1時ごろにお願いします、と
言ってお金を払った。
観覧車はライトアップされて
さまざまな色に変わる。
数多くのお店もキラキラ
輝いていて、歩く人々も
眩しいくらい。
アメリカンというだけあって
外国人もとても多い。
夜遅くに私みたいな高校生が
いると普通は補導されるけど、
残念ながら私は高校生に
見られたことがなく。
全然年上の人たちに声を
かけられることもしばしば。
私ってそんなに老けてるのかね?
今日も人ごみに紛れて、
さまざまな音を感じる。
煌びやかな店には興味がなく、
いつものようにここから
数十メートル先にある
薄暗い公園へ。
小さな光がまばらにあるだけで
風の音も聞こえる。
今見えている位置から
反対側にある本島の光が、
海に敷かれていて。
変わらない光景に
ほっと息をついた。
至る所にある、木でできた
イスに座ってカップルや
家族連れの姿を観察。
やっぱりロマンティック
なだけあって、熱い
カップルが多い。
そこから視線をずらし、
いつも見ている海とは違う
海を見つめた。
ここで歌いたいのは
やまやまなんだけど、
それにしては人がちょっと
多いから迷惑だろう。
だから、我慢。
かわりに私にしか聞こえない
くらいの細さで、鼻歌を
口ずさんだ。
海を見ながらぼーっと
していたら、いつの間にか
だいぶ時間が過ぎていた
みたいで。
さっきまでいたカップルや
家族は誰一人として
いなくなってた。
光で賑わっていた店も
照明が落とされ始めている。
携帯で時間を確認してみると
もう12時前だった。
大体の店は11時閉店だから、
人もそれに合わせて
減っていくのは当たり前。
ただ、ヤンキーなんかは
たまってるみたいだけど
ここの場所は死角になってるから
気付かれない。
あんなのに絡まれたら
最悪だもん。
代行にはいつもの1時と
言ってあるからここからは
この海も風も光も、全部
独り占めできる。
この時を待っていた。
イスから立ち上がり、
海辺に吸い寄せられるように
近付いた。
悪戯っ子な風が私の髪で
遊んでいる。
しばらく風と遊んで、
今、すっと浮かんだ音を
躍らそうとした、
とき。
右側から人の気配を感じて
そっちに視線を向ければ。
浜辺に寝転んでいる
一人の人影を見つけた。

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