青い春の音
作者/ 歌

第9音 (4)
4時限目が終わってすぐに音楽室へと
向かうと、音楽室に続く廊下を歩きながら
ピアノの音が微かに響いているのに気付いた。
静かに中へ入るとピアノの前には
予想通りの、悠。
弾いている曲はとても静かで、悲しい、
ショパンの『別れの曲』。
ショパン自身がこれほどに美しいメロディを
かつても、これからも、書くことはない、で
有名は曲だ。
本当に素敵なメロディで、悠が弾いていると
さらにその曲のよさが際立つ。
激しい部分の音は細かなのに正確で、
指に動きの速さに目が追い付かないくらい。
また美しいメロディを弾き終えて、
悠は鍵盤からゆっくりと手を離した。
それと同時に、僕は拍手を送る。
「すごい!感動したなぁ。本当にきれいだった」
「あはっありがとう!日向、メールの内容のことで
呼び出したんだよね。私もしっかり
説明しときたかったんだ。ってか急にごめん」
苦笑交じりで謝っているけど、僕はもう
やる気満々だからどうてことない。
「全然!確かに突然でびっくりしたけど
悠らしいなと思って笑っちゃった。やるからには
全力で頑張るよ」
「おぉー、さっすが。楽しみだなぁ。
いやね、日向と空雅はこの前観客だったけど
次は2人の音楽を聴きたいと思ってさ。
そう思ったらうずうずして落ち着かなくて」
「ははっ。悠は本当に音楽が好きなんだね」
「好きなんてものじゃない!音楽は
私の部品の一つなんです」
「なくてはならないもの、ってことか」
「そういうこと!」
へへっ、とくしゃくしゃの笑顔を見せる
悠に、どくん、と大きく心臓が跳ねた。
普段はどっちかっていうととても
大人びている悠だけど、たまにこうやって
無邪気な笑顔を見せてくれる。
そのギャップがたまらないて……って、
俺は変態かよ。
心の中で自分に呆れながら、悠と
他愛もない話をしながら空雅が来るのを待った。
「お待たせー」
この前のテストで最下位だったらしく、
その件について担任に呼び出されていた空雅。
そんな様子を全く感じさせない
表情と声に少し心配していたけど、
安心した。
「お待ちしてましたー。で、大丈夫だった?」
「全然余裕!さぁて、話し合いしようぜー」
やっぱり悠も少し心配していたみたいだけど、
空雅の答えを聞いてすぐに本題を切り出す。
「えーと、メールで言ったように1か月後の
7月7日の土曜日に2人のソロコンサートを
開催しまーす!」
7月7日、ってことは七夕の日?
「午後6時から私の家でこの前みたいに
やる感じで、後はもうノリで!
選曲は2人が好きな曲をやってくださーい」
でもそれに気付いているのかいないのか、
悠は普通に話を進めている。
空雅もすぐに七夕の日だと気付いたみたいだけど、
大人しく黙って話を聞いている。
「はいはいはーい!」
「はい、月次空雅くんどうぞー」
「俺はトランペットで『ハトと少年』を
吹くことをここに宣言します!」
ピン、と腕を伸ばして堂々と胸を張りながら
宣言した空雅。
てっきり、趣味でやってたドラムをやるかと
思っていたけど、こういうところは空雅らしい。
挑戦、ってことだよね。
「おぉー!言ったからにはベストをお願いします!」
「空雅、楽しみにしているよ」
「おう!日向はもう何にするか決めたのか?」
「いや、僕はまだだよ。今日、悠の話を聞いてから
今日中に決めようと思ってたんだ」
「そっか!何か質問はある?」
そう悠に言われて、考えてみるけど今は
特にないから空雅と同時に首を振った。
「よし!じゃあ1か月後、楽しみにしてるから
頑張ってね。解散!」
とても楽しそうな悠を見て僕も空雅も
自然に笑顔になる。
1か月後、自分なりのいい演奏を必ず
聞かせよう。
そう決意を固めて、それぞれの教室に戻った。

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