青い春の音

作者/ 歌



第4音  (3)



「お前、家近いよな?」


……なぜそれを知ってるんでしょうか。


「今お前を一人にしたら絶対
 風邪ひくから俺もあがらしてもらうぞ」


そう言って迷わずに私の家へと直行。

ちょいちょいちょい。
私の家の位置まで知ってるって……。

分かった!ストーカーさんだ!


「あ、言っておくけどストーカーじゃ
 ねーからな。俺もこの辺に住んでるから」


あ、あはは。

この人の目、本当に怖いしなんか
逃げられない。



海から道路を一つわたったとこに
バス停があり、その目の前が私の家。

いつも鍵はかけてるけど
裏口しかほとんど使ってない。

それを知ってるのか、彼も玄関を
通り過ぎて裏口へと回った。


……本当にストーカーじゃないのかな。


そんな疑問が一瞬浮かんだけれど、
顔と声には出さないように押しとどめた。

あんな目で睨まれたら寿命が!


思いっきりドアを開けて、
私の手首を掴んでいた腕が離れた。

い、痛い……。


「ほら、入れ」


入れって、ここ、私の家なんですが。

とは言わずに無意識に頭を
軽く下げて靴を脱いでスリッパに
足を通した。



その後から一応「お邪魔します」と
言う声とともに中に入ってきた彼。

少しは礼儀のあるやつだ、とほっとして
玄関からスリッパを出してあげた。

悪いな、とぶっきらぼうに言ったあと、
私の家をぐるりと見回して
怪訝な表情を見せた。


「お前、……まぁ後でいっか。
 バスタオルはどこだ?」


何かを言いかけた彼だが、それよりも
バスタオルのほうが今は重要らしい。


「あ、びしょびしょじゃん」


今更気付いた私は、すぐに洗面所へと
向かい、白い棚からバスタオルを2枚
取り出す。


何で見知らぬ人を家にあげて、
こんなことをしてるのか全く
分からないんだけど。


とりあえず、彼が風邪をひいてはいけない。



「どうぞ」


右手に持っていたバスタオルを
差し出すと、素直にそれを受け取り、

……私の髪をぐしゃぐしゃと
拭き始めた。




ん?

私、きちんと自分のやつは
持ってるし彼に渡したのは使えって
こと、普通は分かるよね?


「…あの」


「……なんだ」


「私、自分の持ってるけど」


「知ってる」



知ってる、って……。

なにこの人バカなの?バカなんだ?
怖いくせにバカなんだね!


「お前、絶対きちんと拭かないだろ。
 風邪ひくに決まってる」

「いやいやいや。自分のことくらい
 自分でできるし!あんたバカなの?」

「バカなのはお前だ。あんな
 土砂降りの中、外にいるやつが
 まともな考えをするとは思えない」


こ、こいつ!

確かにあれはちょっとおかしかったと
思うけど。

風邪ひくのとは別の問題だ。


それよりも。



「ねー、あんた名前は?誰?」


ずっと聞きたかったことを
バスタオルしか視界にないのを
いいことに聞いてみる。


「俺は鬼藤大和(キドウヤマト)。
 ……お前は?」


名乗っていいものかどうか、一瞬
迷ったけれど聞いておいて
答えないのは失礼、だよね。


「神崎悠」


「知ってる」


「はぁ!?」


え、今知ってるって言った?