青い春の音

作者/ 歌



第2音 (1)



それから私達は急激に仲良くなった。

具体的に言うと空雅がちょこまか私の後ろ、
ってか隣を歩こうとするんだけど。


そのせいか、愛花の機嫌が最近
悪すぎるのなんの、空雅に敵対心
むき出しなんです。

他のイツメンのうち、1人はすっかり
空雅の容姿にはまってしまい私に
感謝するほど浮かれている。

もう一方はそんな光景を見て
ただたんに笑ってスルーするだけ。


なんなんだこれは。



「でさー、この前の試合でも俺なんか
 ランニングホームラン打っちゃってさぁ。
 すごくね?おかげで4番とれそー」

「さっすが空雅くん!顔もイケメンで
 スポーツ万能なんてもう最高!」

「あはは…ありがと。なっ?悠もそう
 思うだろ?」

「はいはい。顔も運動神経もいーかもね。
 頭は最悪だけど」



あれから空雅は体育の授業で見事な運動神経を
披露したばかりに、運動部からの勧誘が
それはもうすごかった。

本人は小中と野球をやっていたらしく、
部活をやるつもりはなかったが
勧誘の勢いに負け、入部したらしい。

元々うちの野球部は県内でもトップクラスの
チームであり、甲子園にも何度か出場している。

そのためか、練習にもかなり力を入れていて
それを難なくこなしてしまった彼は
一躍時の人となったわけだ。



「ってかさー何でいつも月次君
 悠にくっついてくるの?
 他の男子といればいいじゃん」


それまで黙っていた愛花が痺れを切らしたのか
わざと棘のある言い方をするが、


「えーだって悠と話したいんだもん。
 俺はいたい奴といるの!」


まったく気にすることもなく堂々と
言ってのけた。

今はお昼休憩でいつものポケモンの
コーヒー牛乳を買いに自動販売機へと
向かうためにぞろぞろと5人で
廊下を歩いているのだから目立つし
話し声も周りにしっかり聞こえている。



「なにそれ。悠のこと好きなの?」


愛花がこの質問をぶつけると、周りの
目が一斉にこちらに向く。


えー愛花さん、こんなところで
そーゆーのやめません?
私がめんどくさいんですけど。


他人事のように聞き流し普通に
廊下を歩く。



「え、当たり前じゃん」



こんなことをさらっと言うことも
出会って初日で把握してるしね。


まー、いくらなんでもこれはちょっと
爆弾発言すぎたか、イツメン2人も
廊下にいる奴らも驚きを隠せていない。

唯一1人愛花だけがものすごい形相だけど。


あ……


ある人物とばったり視線が
合ってしまった。

なーんでこうもめんどくさいことが
起こりそうなことになるわけ?

確実に話丸聞こえだと思うし、
空雅が私の隣を歩くようになってから
愛花以外に若干もう1名
機嫌が最悪な人がいた。


「大高…」


彼の姿に気付いた愛花が、
ぼそっと私にしか聞こえないくらいの
声で呟いた。

大高はすぐに顔を背けて
教室へと入っていくのをしっかり
追っていく愛花の視線。


…大高と愛花の視線が交わることはなかった。


愛花の傷ついた顔を見ていることも
出来ずに何事もなかったかのように
足を前に進めた。

今さっきの出来事の間には、
空雅はイツメンの2人と何やら
話していたようで気付いていない。


いい加減、大高と愛花のこと
どうにかしないとな。


ガコンッと出てきたコーヒー牛乳を
手に取りながら誰にも聞こえない
小さなため息をそっと吐いた。





「じゃ、私はいつも通り行くから」



飲み干したコーヒー牛乳をゴミ箱に
投げ捨てて未だに盛り上がってる
空雅とイツメンの2人、作り笑顔を
している愛花に言い捨てて踵を返した。


いつもの場所はまだ空雅にも教えていない。


ってか誰にも教えるつもりはないし
教えたくないんだよね。

空雅がついてくるようになってからは
その場所まで行くのにどれほど
苦労していることか…

あのバカは好奇心旺盛なため、
何でも聞いてこようとするけど
ここまで何とか逃げ切ってきた。

一番いいのは今みたいにあいつが違うことに
集中しているときに逃げるのが最適。



今日は逃げることに苦労しなかったから、
“いつもの場所”に向かう足取りが軽い。

今日の天気も快晴。

いつものように体育倉庫の上に辿り着き、
空に向かって思いっきり背伸びをした。


「はぁっ!嬉しい空は青いなぁ」


空に向かって1人呟いた直後、
一週間ぶりに一目ぼれした音色が
鼓膜を揺らした。