おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

第4章 「男の娘ですけど何か?」(part4)
「あっ!! そういえば、言い忘れていたんですけど今日から3人部屋に移動させて下さるそうです」
「何の話だ?」
何の話かさっぱり分からない。
嫌な予感はするが。
「寮の部屋の話です」
もう泣きたい。
ちょっとした虐めだよ、これ。
「僕は?」
「ご安心ください。 ボクと翔先輩と同室です」
「そうなのかい?」
「はい。 目黒さんにお願いしてそうしていただきました」
目黒さんというのは男子寮の寮長だ。
気さくで料理上手でとても良い人だ。
「翔は文句ないの?」
「沢山ある」
無いわけが無いだろう。
そもそも、女装癖がある奴と一つ屋根の下で暮らすのはキツい。
「ううっ…。 そんなにボクのこと嫌いですか…?」
半泣きの状態で眸が訪ねてきた。
うっ……。 断りづらい……。
「あっ!! 岡崎が幼気な下級生を泣かせたっ!!」
「…最低」
「ゴミ虫以下」
「酷いわね~」
「ドンマイ」
「降参するべきだと思うぞ」
女性陣(深間、花薇、伊野、稲田先生の4人)からは批判の嵐。
男性陣(相斗、四月朔日の2人)からは他人事な言葉が送られてきた。
「相斗はこいつと同じ部屋で良いのか!?」
「別に構わないよ?」
相斗はヘラヘラした笑顔を崩さずに答えてくれた。
後で絶対にシバく……!!
相斗が許可を出してしまったから、もう俺の意思以外には断る理由がない。
だが、俺の意思は完全に無視されるだろう。
仕方が無い……………。
「………………同室で良いぞ」
「本当ですか!? 嬉しいです!!」
眸が満面の笑みを浮かべる。
こういうのを見るとロップイヤー(耳がたれている種類のウサギのこと)を飼いたくなる。
あれは可愛いと思う。
「そうそう岡崎くん」
「……………なんですか?」
「本入部はいつするのかしら~?」
「しません」
「いつするのかしら~?」
拒否権は無いとばかりに稲田先生が問いかけてくる。
「しませんってば」
「そういうと思って、風葉くんに印鑑を借りて、入部届けを作っておきました~」
「何てコトしてくれてるんですか!?」
入部決定じゃねぇ-か!!
というか、相斗また印鑑盗みやがったな!!
「まだ出してないんですよね!?」
一縷の望みにかけてみる。
出していないならば奪ってでも阻止したい…!!
「出したわよ~。 緑香ちゃんのも一緒に出してきたわ」
一縷の望みは泡沫のごとく、消え去った。
終わった………。
なんか色々終わった………。
「という訳で、みなさんよろしくお願いします」
沈んでいる俺と裏腹に明るい眸は深々とお辞儀をした。
ちなみに、周りは歓迎ムードだ。
俺がアウェーみたいじゃねぇーか。
「そういえば、明日、依頼人が来るからねっ」
深間が唐突に重要なことを言ってきた。
あれ…? 明日って土曜日じゃなかったか?
「明日は土曜日」
伊野も同じことを考えていたらしい。
「陸上部の人からの依頼だから、土曜日とかの方が都合がいいみたいっ」
この学園の陸上部は強豪で、平日には休みが無い。
最近、長距離の個人でインターハイ出場決定者が出たらしい。
「だから、明日の午後1時に部室に来てねっ!!」
この時は翌日にアホみたいな依頼が来るなんてことは全く考えていなかった。
第4章 「男の娘ですけど何か?」
完!!

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