おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

第9章 「嘘を紡いだ唇を」(part6)
佑香さんが作ったものには、「一撃必殺」といった感じの能力が備わっているらしく、食べると100%臨死体験が出来る。
そのため、佑香さんが料理を作ると、光さん以外の全員が難を逃れるために部屋に立てこもる。
「だって、そんなことさせたら、オレら死んじゃうぜ?」
優が僕の横で、ため息交じりに言った。
懐いてくれるのは非常に嬉しいが、いつか忍さんのようになってしまうのじゃないかと、心配になる。
「早く席に座りな」
佑香さんが自分の席に座りながら言った。
家にいる時くらい、白衣とハイヒールを脱いだらどうだろうか。
「分かった! 相斗にぃ、オレの隣に座って!!」
「さぁ、相斗! 兄さんの膝の上に座るんだ!!」
……どうしよう。
翔がいない今、有以外に常識人がいない……!
「全くアンタらは……。 ちょっとは黙っていられないのか?」
「「無理です、ババア」」
忍さんと優の返事を聞いた途端、佑香さんが顔を引きつらせた。
「そうかい……。 死にたいなら、素直にそう言いなッ!!」
佑香さんがそう叫び、白衣の内側からメスやら銃弾やらを取り出し、2人に投げつける。
「投げつける」というよりは「投擲する」という表現の方が正しいかもしれない。
「母さん、食事中は止めて! 危ないでしょ!?」
忍さんが見事にすべての投擲物をかわしながら言った。
食事中でなければいいのだろうか。
「痛いっ! いや、痛いじゃ済まないぜ!?」
優がメスが刺さっている頭を押さえながら言った。
普通なら即死しているであろう部位にメスが刺さっても気絶すらしない辺り、流石というべきだろうか。
「優になんてことするんだよ! 母さんのバカ! 年増! ババア!」
痛みに悶えている優を見て、無傷の忍さんが佑香さんに叫んだ。
「また『ババア』って言ったかい?」
佑香さんがこめかみに青筋を浮かべ、更には、声に怒りをはらませて忍さんに尋ねた。
「言ったけど、何か文句ある!? 優を虐めるなんて許せないよ!」
気持ちの高ぶりのせいか、忍さんは佑香さんの表情に気がついていないらしい。
これはヤバい……!!
佑香さんに「ババア」とか「年増」のような年齢を感じさせるようなことは禁句なんだってば……!!
「消えろッ!!」
佑香さんはそう吐き捨てて、忍さんを窓から突き落とした。
ちなみに、ココは3階だが、1階と2階の天井が高いため、普通の3階のよりも高い。
通常の人間であれば、死んでしまうであろう高さだ。
忍さんや翔のように驚異的なまでに頑丈な人ならば「痛い」で済むと思うけど、有や僕であれば確実に粉砕骨折くらいはしてしまうだろう。
「ちょっと、ババア!! 何するの!?」
忍さんは落とされた直後に、窓のサッシに掴まったらしく、窓から目の辺りまでが覗いている。
少し距離が遠いため確証はないが、心なしか涙目になっている気がする。
かなりのレアシーンだし、写メでもとって、翔に送ってあげようかな。

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