おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

【part4.燕尾服、ゲットだぜ!!】
とりあえず、ベルに返す言葉の選択肢は一つ。
「無理」
「何で? 嫌だ、じゃなくてか」
俺の答えに、ベルが疑問を投げかけてくる。
「あぁ。 だって、俺、既に兄貴に捕まってるから……!」
困ったことに、さっき抱きついてきてから、兄貴はどんなに引き剥がそうとしても離れない。
それどころか、時間が経つ毎に力が強くなってきているような気がする。
「返さないよ! 何が何でも、メイド服を着た翔をモフモフするんだから!」
兄貴が燕尾服を取り返しにきたベルのことを、もともと切れ長の目をキッと更につり上がらせて無茶苦茶な主張をする。
兄貴が窃盗罪で捕まったとして、今の弁解をした瞬間に無罪放免どころか、扱いが容疑者から被告になるだろうな……。
「というわけで、借りてくからね!」
ベルにそう言い残し、片手で紙袋を持ち、空いている方の手で俺を担いで駆け出す。
俺は肥満という訳ではないが、学年でも身長は高い方だし、ある程度とはいえ筋肉がついているから、そう軽々運べるような体重ではないんだけどなぁ……。
兄貴が俺を担いで廊下を疾走するという摩訶不思議な光景だが、幸いにも通行人がいなかったため、部室に入るまで不審な目で見られることは無かった。
「燕尾服、ゲットだぜ!」
部室の扉を開けると同時に、兄貴が聞いたことのあるセリフを叫びながら、右手に持った燕尾服を持った紙袋を高々と掲げる。
しかし、周りはそっちよりも俺を担いでいることのほうが気になるらしい。
常識的なリアクションで、安心した……。
「し、忍さん? どうして、翔を担いでるんですか?」
突っ込まずには居られなかったらしく、相斗が兄貴に尋ねる。
周りも突っ込むべきか突っ込まないべきかの判断に困っていたらしく、質問者である相斗に「よくぞ、聞いてくれた」というような意味を含んだ眼差しを送っている。
「え?」
兄貴が自分の肩に乗っている俺を見る。
そして、俺の姿を確認してから相斗の方へ向き直る。
「どうしてだろうね?」
どうやら兄貴は無意識下で俺のことを担ぎ上げ、逃走を図ったらしい。
……なんともはた迷惑な話だ。
「それなら、降ろせ」
兄貴に少しキツめの口調で言う。
当たり前の中の当たり前な要求なのだが、兄貴には世間一般の当たり前が通じないことがあるから厄介だ。
「今晩、一緒に寝てくれるならいいよ?」
兄貴が無駄に良い笑顔で、爆弾発言をかます。
「大変っ! 岡崎がリアル顔面蒼白状態だよっ!」
フリフリの衣装を着た深間が、心配そうにパタパタと駆け寄ってくる。
よくよく考えてみると、深間は見た目がロリっていうだけで他は至って普通なんだよなぁ……。

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