おいでませ、助太刀部!!   野宮詩織 /作



【part5】



「岡崎を下ろしてあげてっ」

自分で思っているよりも俺は蒼くなっているらしく、深間が必死に俺を下ろすようにと、兄貴説得してくれる。

「嫌に決まってるじゃん。 翔は今から俺とイチャイチャするんだから!」

兄貴が深間に拒否の意を示す。
周りの冷ややかな目に気がつかないあたり、流石と言うべきか。

「翔クンは私とイチャイチャするのよぅ! 翔クンは忍と違って、女の子が好きなはずよぅ」

着替えを終えたらしい中子が、俺を担いだまま立っている兄貴の前で元々大きい胸を更に強調するかのように胸を張り、鋭く兄貴のことを指差す。
そんな中子は、くっきりと体のラインが出るようなピンクがかった白色のミニスカナース服を着ていた。
これを見て喜ばない奴はロリコンなどの特殊性癖の人くらいだろう。

「翔は兄さん以外に興味ないよ! 兄さんも弟以外興味ないよ!」
「何勝手に決めつけてるんだ!? 興味あるからな!?」

ここで誤解されたら、周りの人の俺に対しての評価が「空前絶後、前代未聞の変態」という微妙にカッコいいフレーズついたものになりかねない。
ついでに言うと、中子の姿を見て喜ばない特殊性癖にはブラコンも含まれているようだな……。

「ほら! 私にもちゃんと興味があるみたいよぅ!」

いまだ兄貴に担がれたままの俺の頭を、中子が自らの透き通るように白く華奢な指で、ワシャワシャと撫でくり回す。
中子の表情が、犬か何かと接している時と同じような感じなのは気のせいだろうか。

「翔は優しいから気を使ってあげただけだよ!!」
「違うわぁん! 私に好意的な感情を持ってるのよぅ!」

アホみたいな理由で、兄貴と中子が言い争いを始める。
幸いなことに、兄貴が「危ないから」と言って、無償で肩から下ろしてくれた。

「翔、大丈夫かい?」

相斗が心配そうに顔を覗き込んでくる。
こいつは、面白そうだからといって、俺の身を危険に曝したまま放置することが間々あるが、何だかんだで最終的には助けてくれる。

「あぁ、大丈夫だ」

今回は中子の乱入によって、未遂止まりなわけだし、別段心配する必要はないだろう。
強いて言うなら、腰が少しばかり痛い。

今日の朝から少し痛かったのだが、さっき兄貴に担がれた際にそれが悪化したようだ。
まぁ、この程度なら耐えられるし、後で湿布を貼っておけばいいだろう。

「あれ? 岡崎、それ着ねぇの?」

空気も何も考えずに、外国人を彷彿とさせる綺麗な金髪をチャラチャラと伸ばしている男が話かけてきた。
話の邪魔をされたというのに相斗が、不快そうな顔一つせず、金髪の青年――八雲愁にニコッと微笑みかける。
しかし、付き合いの長い人から見たら分かると思うのだが、あの笑顔は相当に機嫌が悪い時にしか浮かべない類のものだ。

とはいえ、相斗は暴力に訴えるタイプではないし、ひとまず、死傷者は出ないだろう。