おいでませ、助太刀部!!   野宮詩織 /作



第9章 「嘘を紡いだ唇を」(part4)



「まぁ、とりあえず、車に乗ってよ」

忍さんに勧められるがまま、車の後部座席に座る。

忍さんたちの弟である優と有から聞いた話だと、「弟たちを色々なところに連れていってあげるんだ~」とか言って、車の免許を取得したらしい。
気持ちは限りなくありがたいが、「物凄い迷惑をかけているのではないか」と不安になってしまう。

「じゃあ、少し寝させてもらいますね」
「うん。 おやすみ」

忍さんの返事を聞いてから、僕はすぐに眠りについた。

* * * * * * * *

「うん、大丈夫だね」

軽い検査の後に医者に言われた。
いつもは忍さんたちの父である、光(ひかる)さんが診てくれるのだが、生憎、金曜日は休みのため、他の人に診てもらった。

「本当ですか?」

忍さんが心配そうな顔で医者に尋ねた。

「まぁ、まず、運動とかをしなければ、しばらくは保つだろうね」

うーん……。
『保つ』って言われても、全く安心できない。

「また来週の木曜日に来てください」

医者が半機械的に言った。
自分が『欠陥』を抱えていないから、『欠陥』を抱えている人間の気持ちが分からないのだろう。

「……分かりました。 では、失礼しました」

僕の心情を察してくれたのか、忍さんが僕の手を引き、待合室へと繋がる扉を開いた。

「あいつ、何様のつもり!? 俺の相斗を何だと思ってるの!?」

引きずられるような形で診察室から出ると、忍さんが突然、キレイな顔を歪めて悪態をついた。
忍さんこそ、僕のことを何だと思っているのだろうか。

「しょうがないですよ。 今日は光さんが休みなんですから」
「うーん……。 やっぱり、父さんがいる日じゃないとダメだね。 今度は金曜日以外に来よう?」

肯定の意思を示すため、首を縦に振る。
あの医者より光さんの方が遥かに他人の気持ちを察する能力に長けている。

看護師さん達の話だと、医療技術や顔立ちなども、光さんの方が勝っているらしい。
「光先生、カッコいいよね! 光先生の息子なら君も将来、絶対良い男になるよ!!」と当時6歳の僕に言ってきた看護師さんも居るほどだ。

「さぁ、ご飯を食べに行こうか! 薬は兄さんが明日取りに行くから」

有無を言わせないためか、僕が返事をする前に忍さんが手を引っ張り始めた。

「うぅ……。 じゃあ、お言葉に甘えて」
「言葉じゃなくて兄さんに甘えてよ」
「丁重にお断りいたします」
「冷たい!」



…………当然のリアクションだと思う。