おいでませ、助太刀部!!   野宮詩織 /作



第8章 「吾こそ翔の正妻なのじゃ!!」(part12)



「ちょっと返しなさいよ! この泥棒!!」

水浸しになっている見知らぬ女生徒が中子にメモ帳の返却を必死の形相で求めている。
結構、シュールな光景だな……。

「え~? なんで返さなくちゃいけないのよぅ」

今、お前の前にいる人の所有物だからだ。

「私の所有物なんだから当たり前じゃない!」

女生徒も同じことを考えていたらしく、中子に少しキツく言い放った。
ごもっともな意見だと思う。

「違うわよぅ」

中子が何故か女生徒の言葉を否定した。
一体、何が違うというのだろうか…………?

「みんなの所有物(もの)は私の所有物、私の所有物は私の所有物だものねぇん♪」

………………ここに勢力を大幅に拡大したジャイ○ンがいる!!
対象の人間1人の所有物のみならず、全員を奪うつもりらしいぞ!!

「だから、翔クンも私の所有物よぅ!」

理不尽だ!
しかも、さりげなく、俺を物扱いしてるし!

「なぬっ!?」
「違います! 岡崎先輩はボクの婿になるんですよ!」
「違うよ! 翔は俺の嫁だよ!!」

中子の言葉に月海、更にはさっきまでこの場にいなかった眸と兄貴が反応する。
なんで、こういうタイミングに限って眸や兄貴がいるんだろうか。
というか、兄貴は何故、この場にいるんだ?

「あっ! この間の怖い人だっ」

深間がピョンピョンと跳ねながら兄貴を指差す。

「人違いです。 ところで、相斗はどこにいるの?」

兄貴は深間を軽くスルーして、俺と中子と月海に質問してきた。

「あぁ、あの猿ならば、今さっき仮眠室に行ったのぅ」

月海が自分のあごの辺りを擦りながら言った。

「というか、兄貴は何で相斗を探してるんだ?」

素朴な疑問をぶつける。 病院なら昨日の夜に行って来てるはずなんだがなぁ……。

「嫉妬!? 翔が嫉妬してくれるの!?」
「違う」

兄貴のアホな発言をすぐに否定する。
だから、月海や眸たちも「まさか……!?」的な表情(かお)を今すぐに止めて欲しい。

「なんだよー。 甘々な展開を期待しちゃったじゃないかー」
「実の弟に対して、そんな展開を期待するのは明らかに可笑しいだろうが!」

義理の弟に対してでも十分に可笑しいと思うが。

「えーとね、今日は相斗を病院に連れて行くためにここに来たんだよ」
「昨日、行ってきただろ?」

昨日、兄貴がここに来た理由は相斗を病院に連れて行くためだったりする。

「いや、昨日はあのバカ親共の方で、今日は相斗の病気のほっ」

相斗がわざわざ隠していることをさらっと言おうとしていた兄貴の口を物理的に塞ぐ。
口を塞いだだけだから呼吸は出来ていると思う。
というか、相斗の両親のことをバカ親と呼ぶのはどうなのだろうか?

「ぷはっ! なんで、兄さんの口を塞ぐのさ! そんなことより、翔の手から石鹸のいい香りがしたよ!!」

口を塞がれているというのに、人の手のにおいを嗅ぐ余裕がある兄貴は明らかに人と感覚がずれていると思う。

「翔! 手を出すのじゃ!」
「岡崎先輩! 手を出してください!」
「翔クン、手を出してちょうだい♪」
「翔たん、手を出して欲しいのですよ」



……あれ? 1人、多くね?