おいでませ、助太刀部!!   野宮詩織 /作



【part2.メイド服を着た男なんていねぇーだろうが】



「大丈夫、翔なら似合うよ!!」
「突然現れて、何事もなかったように会話に入ってくるな」

突然現れ、ちゃっかり後ろから相斗に抱きついている兄貴が、メイド服を相斗から受け取る。
毎回毎回、突如現れた挙げ句、事態を悪化させるのはやめて欲しい。

「着方が分からないなら、兄さんが着せてあげるから安心して。 相斗も着……アレ? いない!!」

さっきまで、兄貴に抱きつかれていたはずの相斗がいつの間にか消えていた。
辺りを軽く見回すと、深間と稲田先生の陰から金色に近い明るい茶色の髪が見える。

いくらなんでも、逃げるの上手すぎねぇーか……?

「むぅ……しょうがないなぁ。 ほら、翔のことは兄さんが着替えさせてあげる!! 早く脱いで!!」

兄貴がメイド服を片手に、息を荒くして熱弁する。
こういう奴を世の中では変態というのだろう。

「嫌だ!! メイド服着てる男なんてどこにいるんだよ!」

メイド服を着せられてはたまらないので、兄貴に反論する。

「え? あそこにいるよ?」

兄貴がいつもと同じメイド服を着ている眸とその隣にいるロングスカートタイプの青に近い紺色のメイド服を着た人を指差す。
眸が男なのは周知の事実だが、その隣のメイド服を着たチャラチャラと伸ばされた金髪の人も体つきと髪型から考えて、十中八九男だろう。

「ね? いたでしょ? 早く着替えようよ!」

俺が眸達を見たのを確認してから、メイド服を持った右手をグイグイと俺の方へと押しつけてくる。
もう一方の手は、俺が眸達を見ていた間に拉致してきたと思わしき、相斗の手が握られていた。
当たり前だが、相斗は嫌がっているらしく、必死で手を振り解こうとあがいている。
まぁ、そんな簡単に兄貴が引いてくれるとは思えないが。

「あら~? 風葉くん、丈直し終えてないんだけど~」

稲田先生が兄貴のもとに歩み寄りながら、そう言う。
あからさまに残念そうな顔をして相斗から手を離した兄貴とは対照的に、稲田先生の助け舟によって解放された相斗は非常に嬉しそうな表情をしている。

「後、セバスチャン。 メイドは執事とセットだから、燕尾服を着たらどうかしら~?」
「セバスチャンじゃないです。 燕尾服、どこにあるの?」

爛々と目が輝いている稲田先生が、自分の趣味で兄貴に燕尾服を着せようと、適当な話をでっち上げる。
そんな話で騙される兄貴も兄貴だが、単純な奴だから仕方ないと言ってしまえば、それまでだな……。

「まさかセバスチャンが参加してくれると思ってなかったから、用意してなかったのよ~」

稲田先生が心底残念そうに告げる。

「そうなの? じゃあ、パクってくるね」

兄貴が稲田先生に紙袋とメイド服を押しつけ、何故か廊下へと駆け出す。
走り去っていった方角的にBクラス以降の教室に行きたいのだろうが、演劇部等の衣装を使う部活の部室がない方向へ行くのだろうか……。



……被害に遭う人がでたら嫌だから、追いかけよう。