おいでませ、助太刀部!!   野宮詩織 /作



【part7】



「うふふ、どうしてかしらね~」

稲田先生がさっきの会話を聞いていたとしか思えないリアクションをとる。
ニヤニヤしているあたり、確信犯なのは間違いないだろうけどな。

「一般的な女の子よりもキレイなものが出来上がっちゃってるよっ?」

深間が俺のメイド服姿を目の当たりにして、感想を述べる。
本人は誉めているつもりなのだろうが、否応無しに着せられてしまったメイド服状態で褒められても全然嬉しくない。

「そうですわね。 切れ長スレンダー美人と言えばバレませんわ」

いつの間にやら俺の肩書きまで考えてくれたのは、今回、助太刀部と合同ブースという明らかな貧乏クジを引いた文芸部の部長、笠井先輩だ。
彼女はウェイトレス役はやらず、裏方に徹するらしく、いつものセーラー服姿のままだ。

「……俺、もう帰る」
「じゃあ、帰って兄さんとイチャイチャしようか」
「……やっぱり、帰らない」

帰っても帰らなくても悲劇しか起こらないこの板挟み状態。
誰か救いの手を差し伸べてくれてもいいものだが……。

「…似合う?」

そこへ一条院と色違いと思わしき黄緑色ベースの巫女服を身につけた花薇が現れる。
…………俺がその場にいない第三者に期待すると、何故か花薇が出てくるなぁ。

「似合ってるわよぅ」

中子が空気を読んでなのか本心なのか花薇を誉める。

桜や四月朔日も含め、助太刀部周辺の奴らは癖が強すぎるため忘れがちだが、美形が多い。
もちろん、花薇もその例に漏れることなく中身はともかく、見た目は可愛い。


「似合ってるんじゃねぇーの」

褒めたはずなのに、花薇が不満そうな表情をする。
思い当たる節がないぶん、どうしていいかがさっぱり分からない。

「あ、えーと、似合ってふぐっ!?」

フォローの意味を込めて、もう一度「似合っている」と言おうとした瞬間、背中に4つの衝撃が走り、床に倒れる。
なんというか、二人の人が同時にドロップキックをしてきたら、こんな感じになると思う。

「これだから、女心の分からない男は嫌ですわ!」
「本当ですね。 ところで、愛。 さきほどのドロップキックは見事でしたよ」
「ドロップキックは常夜の方がキレのある動きでしたし、何より威力の高さが圧倒的でしたわ」

どうやら予想と違わず、二人の人間にドロップキックをされていたらしい。
しかも、それを喰らった人間の横で笑顔のまま、互いのドロップキックを褒めあうとはどんな神経をしているのだろうか。

床に突っ伏したまま、ドロップキックを繰り出した主を見上げる。

愛と呼ばれた人は、黒髪を高い位置でツインテールにしていて、ゴスロリを着ていて、どことなくツンツンしたオーラを発している。
常夜と呼ばれた方は、黒髪のストレートのセミロングを下ろしていて、彼女のスラッとしていて華奢な体系にあったレディーススーツを着ている。
常夜の衣装は、教師をイメージしたものなのだろう。

……まぁ、メイド服を着た男子生徒の背中にドロップキックをいれるような先生はいないだろうけどな。