おいでませ、助太刀部!!   野宮詩織 /作



第9章 「嘘を紡いだ唇を」(part3)



「おぶられるのが嫌なら、お姫様だっこでも可だけど、どうする?」
「そういう問題じゃないです」

忍さんからしたら譲歩的提案なのだろうけど、絵面的にはかなりヤバい。
というか、絵面以前の問題だと思う。

「カレーが嫌だった? それなら、ハンバーグくらいなら頑張れるよ?」
「いや、そういうことでもないです」

心配してくれているであろうことは非常に伝わってくるが、見事に的を外している。

「じゃあ、何か言いたいことがあるの?」

忍さんが不安半分、心配半分といったような表情で尋ねてきた。

「ご飯とかは大丈夫ですよ。 僕は寮に戻ってから、残り物とか温めて食べますから」

忍さんたちに迷惑をかける訳にはいかないしね。
ただでさえ、10年以上、親族でもないのに育ててもらったのだから、極力、迷惑はかけたくない。

「ダメだよ! 最近、母さんが『相斗たちが実家に帰って来ない』って言って、兄さんに八つ当たりしてくるんだから」
「……忍さんは忍さんなりに苦労してたんですね」
「うん」

忍さんが素直に頷き、すぐに僕の近くへと歩み寄って来た。
これは逃げた方がいいのかな……?

「よいしょっ……と」
「……何も言わずに僕のことをお姫様だっこして、楽しいですか?」
「うん、とっても!!」

しかも、軽々と持ち上げられてしまった。
忍さんは確かに細身なのに筋肉質だということを差し引いても、僕、また体重減っちゃってるのかなぁ……?
これ以上、減るとかなりヤバいんだよね……。

「あっ、でも、おぶった方が接触する面積は広いね」

忍さんが優しげな笑顔で言った。
普段ならば好印象を与える表情だが、今は忍さんがとっている行動のせいでむしろマイナスの効果になってしまっている。

「降ろしてください」

僕の言葉を聞くや否や、忍さんが首を横に振った。

「嫌だ! 兄さんはもっとスキンシップを図りたい!」
「忍さんのは基本的にスキンシップというよりはセクハラです」
「違うよ! アレは兄さんなりの愛情表現なんだよ」

僕のことを抱えて歩きながら、忍さんが熱弁する。
うーん……。 忍さんには申し訳ないけど、さっき中途半端に寝ちゃったせいで、眠たくなってきた……。

「相斗、助手席と後ろの席、どっちがいい?」

ウトウトしていると忍さんに尋ねられた。
ここで話しかけてくれなかったら、危うく寝てしまうところだった……!!

「えーと、じゃあ、後ろで」

後ろの席に座れば、比較的、気を使わずに寝ることが出来るため、そっちの方を選択する。

「分かった。 ゆっくり、寝ててね」
「あれ? バレてました?」

ずっと、ウトウトしていたとはいえ、翔と佑香さん以外に大丈夫なフリがバレたことなんてなかったのになぁ……。

「うん。 弟たちの動きは一挙一動見逃さないようにしてきたからね! 体調の良し悪しとかは一瞬で分かるよ」



「そこまでいくと、気持ち悪い」と思ったのは僕だけでないはずだ。