おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

第9章 「嘘を紡いだ唇を」(part2)
「起きたなら病院に行こうか。 もう7時だしね」
忍さんが壁にかかっている時計を指差して言った。
正確には6時50分だが、まぁ、その程度の誤差は気にしない。
「ん? 今日って定期検診の日でしたっけ?」
定期検診は毎週木曜日だったはずなんだけどなぁ……。
携帯を開いて調べてみても、今日はやはり金曜日だ。
「うん。 昨日、あいつのせいで行けなかったでしょ?」
あぁ。 そうだった。
昨日は「血を寄こしに来い」って言われて、あいつの為なんかに病院に行ったことを、すっかり忘れていた。
「歩ける? ダルイなら、兄さんがおぶってくよ?」
忍さんが心配そうに尋ねてきた。
「大丈夫です。 歩くくらいなら出来ますから」
忍さんに心配と迷惑をかけないように答える。
実際のところ、身体がかなりダルイが歩くくらいなら耐えられるだろう。
「……やっぱり、おぶっていくよ。 別に言い訳付きで相斗と密着出来るとか考えてないよ!?」
「思ってるんですね?」
兄弟揃って隠し事がすごい下手だなぁ……。
「ほら、早く早く!!」
忍さんが目を輝かせて僕の両手が方にかかるのを待っている。
大きくてもふっとした犬が飼いたくなる表情だ。
「大丈夫ですよ。 それに忍さんより僕の方が背高いですし」
身長的には5cm程度、僕の方が高い。
その身長差を考えるとさぞかし背負いにくいだろう。
「大丈夫だよ。 相斗は軽いからね」
「そりゃ、筋肉がつくような生活は送れませんからね」
ドクターストップがかかっているため、授業の体育にも参加できない奴に筋肉なんてものはつくはずがない。
体育祭なんていうものに参加できる日は永遠に訪れない。
そのたびに。佑香さんや忍さんたちにお世話になるのは申し訳なく思うけど、自力で解決できる問題じゃないから、「申し訳ない」と思い続けることしか出来ない。
「筋肉なんてつくだけ無駄だよ。 体重増えるし、見てくれもわるくなるしね」
「フォローですか?」
「うん。 母さんの受け売りだけどね」
やっぱり。
とてもじゃないけど、忍さんが体重を気にするとは思えない。
「今日、晩ご飯はうちで食べていく?」
忍さんが前を向いたまま、尋ねてきた。
病院からは亮よりも忍さんたちの実家の方が断然近い。
「いや、遠r「今日はカレーだよ」人の話を少しは聞きましょうよ……」
どうやら、僕に拒否権は全くないらしい。

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