おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

【part8】
「ちょっと!! 俺の嫁になんてことするの!?」
兄貴が凪風と月読を押しのけ、床に倒れている俺に向かってダイブする。
助けようとしてくれる気持ちは有り難いが、弟である俺を嫁だと認識するのはやめてもらいたい。
「公然猥褻物が増えましたね……」
「えぇ、しかも、新手の方が度を越してる感じがしますわ」
月読達が兄貴に対して間違いの無い見解を示す。
本当に否定材料が見当たらないが、事実だししょうがないよな……。
「セバスチャン!! セバスチャンがセバスチャンだわ~!」
文法的に成り立っていないことを叫びながら、稲田先生が兄貴に飛びつこうと思い切り地面を蹴り、跳躍する。
今、記録を取ったら、オリンピックの代表に選ばれても何ら不思議の無い記録が出るだろう。
「ところで、料理は歩と伊野が作るんだよね? 歩は一人暮らししてるから作れるだろうけど、伊野は大丈夫なの?」
稲田先生の抱き付き――というか、もはやタックルとなっている技をサラッとかわしてみせた兄貴が珍しくまともな質問をしてきた。
言われてみれば、深間は「上手だ」と言っていたものの、キッチンのメイン2人の料理の腕前がさっぱり分からない。
伊野は謎めいていて何をするか分からないし、桜に至っては生物兵器を作ってくるんじゃねぇーか……?
「ダブル岡崎、毒じゃなかった……味見しろ」
噂をすれば影、俺と兄貴に桜が試作品らしき肉まんとケバブの乗った皿を差し出してくる。
「ムリムリ!! だって、お前、今さっき毒味って言いかけただろ!?」
目の前にある料理に毒が入っていると分かっている上で『わー、美味しそう!』と言って食べるバカはそうそういない。
……俺の父親がその『そうそういないバカ』に該当する人間なのは突っこまないことにしよう。
「誰がどっちを作ったの?」
兄貴が桜に問いかける。
まさかとは思うが、兄貴は試作品を食べるつもりでいるのか……?
毒とまではいかなくても、大量の辛子だとかわさびだとかが入っている可能性もある。
なんと言っても、兄貴に大量のタバスコを飲ませるというとんでもない嫌がらせをやってのけた奴らの主格犯の1人だからな。
「両方、あたしと伊野が一緒に作った」
桜が聞かれたことのみを端的に答える。
伊野も一緒に作ったということは、命を脅かすようなものは入っていないだろう。
「じゃあ、いただきます」
兄貴が肉まんを手に取り、半分に割る。
その片割れを俺に向けて差し出す。
どうやら「食べていい」という意味のらしい。
兄貴から湯気が立っている肉まんを受け取り、口にいれる。
「ん……旨い」

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