おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

【part9】
桜と伊野が作ったという肉まんは、毒やら大量の辛子が入っていることもなく非常に旨かった。
ついいつもの癖で疑ってしまったが、今改めて考えてみると、客に出す前提で作っているものにそんな危険物を入れたりはしないよな。
「うん、普通に美味しいね」
兄貴も肉まんの片割れを頬張りながら、感想を述べる。
兄貴自身が料理上手だから、彼の中で相当ハードルが上がっているのに、その兄貴が誉めるなんて凄い旨かったんだな。
「そうか。 なら、メニューに問題は無いな」
桜が余ったケバブを箸で摘みながら、言った。
口の中に物を入れてしゃべったため、若干声が籠もっている桜が続けてしゃべる。
「岡崎、お前、ついに目覚めたか」
俺のメイド服姿を見て、桜が突っ込む。
蔑むような視線が心に深々と突き刺さる。
まぁ、四月朔日だったらその視線にプラスして、ネチネチと嫌味を言ってきたりからかったりしてくるけどな……。
「人を姑みたいに言うな」
状況や俺の表情から考えを悟ったらしい、四月朔日が俺の頭をパシンッと軽く叩く。
うん、全然痛くない。
「翔を叩かないで!!」
そう言って、兄貴が俺を叩いた四月朔日の手首を捻る。
「痛い痛い!! ヤバい、手首外れる!」
四月朔日が兄貴の凶悪攻撃から逃れようと、そこそこ力を込めて手を振り払おうとするもそんなことで引く兄貴ではない。
「許さないよ、弟を虐める奴は許さない!」
兄貴が無駄に凛々しい声と表情でそう叫ぶ。
兄貴は本当に全力で捻りあげているらしく、四月朔日の目にうっすらと涙が浮かんでいる。
四月朔日は唇を噛んで耐えているものの、このままだと四月朔日の手首の関節が外れかねない。
流石に止めないと危ないな……。
「兄貴」
「何してるんだい、このバカが」
俺が兄貴に呼びかける声を遮る形で、気だるそうなのに凛とした女性の声とドロップキックが兄貴へと降りかかる。
女性の靴のかかとについているハイヒールが兄貴の腹に突き刺さり、条件反射で四月朔日の手を離す。
四月朔日の手を見ると、兄貴が掴んでいた部分が見事に内出血で青紫色に染まっていた。
あれは結構ヤバい……!
「お袋、兄貴はいいから、四月朔日の手当てしてやってくれ! 何かヤバい色になってるから!」
兄貴にドロップキックを極め、現在はマウントポジションを奪いたこ殴りにしている紫色の髪をバレットでまとめ、タイトなレディーススーツの上に白衣を羽織っている女性――我が家の母親で九条学園養護教諭でもある、岡崎佑香に訴える。
「あ? 本当だ……。 唾でもつけとけ」
お袋は四月朔日の手首を見た直後そう言った。
普通、小さな切り傷でも絆創膏を貼るくらいしてくれるのに、広範囲に及ぶ内出血の患者に「唾でもつけとけ」と言いながら息子をたこ殴りにするというのは明らかに異常だ。
しかも、内出血は外的な傷じゃないから唾をつけても意味がないし、養護教諭が現在進行形で増えていくという悪循環が起きている……!!

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