おいでませ、助太刀部!!   野宮詩織 /作



第9章 「嘘を紡いだ唇を」(part8)



「勿論。 私が自ら進んで、こんなことをすると思っているのかい?」
「「え? 違うの?」」

佑香さんの言葉に忍さんと優が整然とした顔で答える。
……正直に言うと、僕も同意見だ。
ただ、それを口に出すと命が危機に晒されるため、口には出さない。

「ははっ、さっき落ちちゃえばよかったのにな」

佑香さんが再びこめかみに青筋を立て、尖った犬歯をむき出しにして噛みつかんばかりの表情で忍さんに言った。

「嫌だよ! 母さんこそ、早く地獄に堕ちてよ」

忍さんが負けじと反論する。

「ついにマトモに反論するようになったな」

今まではマトモな反論をしてなかったんだ……。

「そりゃ、15年以上も母さんに育てられてきたんだから、嫌でもある程度は言いかえせるようになるよ」

忍さんの言葉を皮切りに2人が喧嘩する寸前のような険悪な雰囲気を漂わせ始める。
佑香さんの空腹時はいつもの10倍、機嫌が悪いのを忘れたのだろうか?

「ねぇ、2人共! 喧嘩するくらいならオレを虐めてよ!!」

光さんが喧嘩を煽ろうとしているのか止めようとしているのか、よく分からないことを言う。

「「黙ってろ」」

佑香さんと忍さんが同時に叫び、冷ややかな目線を送る。
その姿は血が繋がっていないのが不思議なくらいにそっくりだ。

「あっ、そこそこ!! もっと踏んで!!」

案の定、キレかけている佑香さんと忍さんが光さんのことを踏む――というか蹴っている。
この人は、下手に暴力で訴えるよりも、放置の方が応えるのになぁ……。

「黙れ、このゴミ虫」
「違うよ、母さん。 ゴミ虫じゃなくて、ゴミそのものだよ」

……妙な形でだが、さりげなく佑香さんと忍さんが和解している。
これ以上、ここにいても巻き添えを喰らうだけだろうし、そろそろ帰ろうかな。

「優、有。部屋に戻ったら?」
「………うん。 そうする」
「オレ、相斗にぃの部屋に行きたい! 話したいことが沢山あるんだ~」

僕の提案に対し、有が優しげにうなずき、優は嬉しそうに跳びはねた。
この2人は本当に似てないなぁ……。
特に優が髪を金色に染めてからは、更に似なくなったんだよなぁ……。

「僕はもう帰るから、また今度ね」

そんなノスタルジアに浸りながらも優の誘いを断るために、返事を返す。

そろそろ寮に戻らないと睡眠時間を削ることになってしまう。
何としてでも、それは避けたい。

「えー!? 明日、休日でしょ!?」

さっきまで、実の父親に(本人の許可を得て)殴る蹴るの暴行をくわえていた忍さんがリビングから飛び出し、叫ぶ。
この無駄までの身体スキルを生かすべき場所は、もっと他にあると思う。

「明日は部活があるんですよ」

今し方、翔から来たメールに「明日、部活あるからサボるなよ」的な内容が書いてあった。
翔のことだから、嘘を吐くなんてことはしていないだろうしね。

「えー!? じゃあ、泊っていってくれたら、明日の朝、兄さんが裸エプロンでモーニングコールをしてあげる!」
「絶対に帰ります」

僕は忍さんに対して、恋愛感情を持ったことは一度もない。

「相斗にぃ、今すぐ帰るべき」

有がフォローを入れてくれた。



本当に涙が出てきそうなくらいに、いい子だなぁ……。