おいでませ、助太刀部!!   野宮詩織 /作



【part10】



「というか、お前もお前だ。 自分の性別も忘れたのかい?」

相斗と俺の口調を足して二で割ったような口調でお袋が問いかける。
正しくは相斗がお袋の真似をしているのだが、そんなことはどうでもいい。

「忘れてねぇーよ。 あいつらに着せられたらだけだ」

伊野から渡された味見用の肉まんを食べながら、キャピキャピと嬉しそうに話している深間と稲田先生を指差す。
実行犯は兄貴な訳だが既に満身創痍だし、なんか悪いような気がして訴える気にはなれない。

「またお前が犯人か……」

兄貴が犯人だという言葉は飲み込んだはずなのに、悟ったお袋がため息をつく。

「だって、いつもは嫌がるから寝てる翔にしか着せられなかったんだもん! 良い口実を見つけたから、ついつい……ね」

もはや怒る気さえも無くしたお袋が兄貴の上から退く。
今退かれたら危険な気がするが、稲田先生という対兄貴に特化した人もいるし大丈夫だろう。

「翔、モフモフさせてー」

お袋から解放された途端に再び兄貴に抱きつかれる。
…………もう、いいや。
何言っても退かないだろうし、いないものだと思って行動しよう。

「なぁ、もうシフトとか出来てるのか?」

肉まんを食べ終えた深間に尋ねる。
せっかくの文化祭だし、仕事がある時間以外は他の出し物を見て回りたい。

すると、深間の横にいた稲田先生が突然思い出したように自分のすぐ横に置いてあるカバンを拾いあげ、中から結構な枚数のプリントを取り出す。

「もう出来てるわよ~。 さすがに全員の交友関係を把握するのはムリだったから適当に割り振っちゃったんだけどね~」

稲田先生からシフトが書かれている紙を受け取る。
一瞬でも、全員の交友関係を考えて配置しようとした気持ちはすごいと思う。

自分の名前を探すと、フロアで1日目、2日目ともに最初から正午という忙しい時間に差しかかるかかからないかの瀬戸際の時間に設定されていた。

「なんで俺と朱里までシフトに組み込まれてるの?」

俺の後ろからヒョイと顔を覗かせている兄貴があからさまに嫌そうに問いかける。
嫌がらせとしか思えない回数顔を出している兄貴はともかく、なんで朱里さんまで……?

「すみません、黄緑が倒れたって聞いたんですけど」

なんとも絶妙なタイミングで朱里さんが部室の扉を開ける。

「黄緑? 少なくともここにはいませんよ?」

相斗が朱里さんの方を向き、そう言った。
朱里さんの弟であり、俺のクラスメイトである目黒黄緑は帰宅部だったはずだし、ここにいる可能性は低い。

あっ、そうか。
保険医のお袋を探しにきたのか。

「いや、稲田先生から連絡があったんだけど……」

朱里さんが軽く頭を掻きながら不思議そうな表情をする。