おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

第9章 「嘘を紡いだ唇を」(part12)
「どこー? うにゅっ!?」
外でベチッという派手な音が聞こえた。
恐らく、葵さんが転んだのだろう。
「ほら、助けに行かなくていいの?」
再び命の危機に晒されてしまっている兄貴が、自分の首を締めている朱里さんの腕を引っ張りながら言った。
「大丈夫だろ。 兄ちゃんはあれでも、もう23歳だぞ?」
朱里さんの言った通り、葵さんは外見が幼いだけであって、実年齢は兄貴や朱里さんよりも3歳も年上なのだ。
きっと、この程度何でもないはずだ。
「うっ……ふぇーーーーんっ! 痛いよーーっ!!」
……ダメだ。
精神年齢の方は外見相応だ……!!
「ほら、泣いてるよ!? 早く助けに行きなよ!」
いよいよ苦しくなってきたらしい兄貴が朱里さんに言う。
動機は不純だが、確かに朱里さんは葵さんを助けに行くべきだと思う。
「逃げるなよ?」
朱里さんが兄貴に向けて、威圧的に言い放った。
その時に感じた威圧感のせいか、朱里さんの背景にリアルな大量の悪魔的な生命体が見える。
いや、なんかサイボーグっぽい奴も数体いるから、生命体ですらないのかもしれない。
というか、幻覚だと信じたい……!!
「ちょっと、道開けろ」
朱里さんが効果用の背景であるはずの悪魔に言った。
しかも、ちゃっかり道が開けている。
さながら、モーセの海開き状態だ。
「ねぇ、翔。 これは……」
「アウトだろうな」
みだりに能力を使うのは禁則事項だったと思う。
前の月海のように詠唱スタートであれば止める余地があるのだが、今回のように詠唱をカットされてしまうと止める余地がないから困る。
「抹消」
背景(だと思われる)悪魔が漢字だけで、俺と兄貴に宣告してきた。
意訳だが「次に主である朱里さんに文句を言ったら、抹消する」と言いたいらしい。
「とりあえず、えいっ!」
「きゅっ!?」
兄貴が眸の首に思い切りチョップを入れたため、眸が小さく悲鳴をあげて倒れた。
というか、「きゃっ」なら分かるが、「きゅっ」っていう悲鳴はどうなのだろうか。
「これでセーフじゃない?」
「人道的には完全にアウトだけどな」
朱里さんのためを思ってやったのだろうが、人道に反している。
とりあえず、眸はベッドの上に寝かせておくか……。
兄貴が原因といえど、放置して風邪でもひいたら大変だ。
そんなことを考えながら、お姫様だっこをするような形で眸を持ち上げる。
思っていたよりも軽いな……。
「リア充、爆発シテ欲シイナー」
「…………」
さっきの奴のみならず、他の背景(のフリをした悪魔)も人語をしゃべることが出来るのか……。

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