おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

第8章 「吾こそ翔の正妻なのじゃ!!」(part7)
「翔! やっと見つけたのじゃ!」
声がした方向を見ると、月海が息を切らしながら走ってきていた。 一回、振り切ったと思って油断してた…………!!
「噂をすれば影……だね」
相斗が購買で買ったイチゴジャムパンを頬張りながら言った。
「むっ、そこの猿! 退くがよい!!」
月海が相斗を指差して言った。 いくらなんでも猿って酷くないか?
「猿? 猿って僕のこと?」
相斗がヘラヘラした笑顔のまま、自分を指差して尋ねた。
「無論じゃ! 汝以外に誰がおると言うのじゃ?」
月海が胸を張って言う。
巨乳の月海が胸なんかを張っちゃったもんだから、相斗といるお陰で集まっていた視線がさらに増えた気がする。
「僕は猿じゃなくて人間だよ。 名前は風葉相斗ね」
「そうか。 じゃが、吾は翔以外の男に興味はないのじゃ」
月海が相斗の自己紹介を軽く受け流す。 いや、受け流すというよりは無視に近いかもしれない。
相斗の外見に少しもキャーキャー言ったりしない女子は始めて見た。 あの伊野や桜だって、さりげなく「カッコいい」的なことを言ってたのに……。
「………………確かに素直で一途だけど、この子は引き取れそうにないよ。 清々しいほどに拒絶的だもん」
「………………そうだな。 お前のこと、人間だとさえ思ってないみたいだしな」
相斗の言葉に同意しておく。
でも、世の中、顔で判断しない人もいるらしい。 月海が少し特殊なのかもしれないが。
「何を話しておるのじゃ? まぁ、よい。 翔、愛妻弁当を作ってきたから食べて欲しいのじゃ」
月海がそう言って、包みと弁当箱の蓋を開ける。
弁当の中身は色とりどりで栄養価的にも彩り的にもちょうどいい感じだ。 そして、何より美味しそうだ。
美味しそうなんだが――――――――――――
「すまん………。 俺、もう昼飯食っちゃった」
右手に持っている焼きそばパンが入っていた袋が証拠だ。
「なっ…なんと……!! 吾の努力が水泡と化した……」
月海が残念そうに弁当箱を見つめている。 ………なんか物凄く申し訳ない気分だ。
「食べてあげれば?」
相斗がいつもの表情を崩さずに言った。 さては他人事だと思ってやがるな……?
「うっ、じゃ、じゃあ、少しだけもらってやるよ」
「ほ、本当か!? 嬉しいのじゃ!」
月海の表情が、さっきまでの泣きそうな顔から打って変って晴れやかな笑顔になる。
月海、いつも、こういう表情でいればもっと可愛いと思うんだけどなぁ。
「は、はい、あーん!」
月海が程良く焼かれている卵焼きを箸で掴み、俺の前に差し出す。
え? あれ? 急展開過ぎて頭の整理が追いつかない……!
「は、早く口を開けるのじゃ!!」
月海に急かされる。 やはり、人前でこのような行動に出るのは流石に恥ずかしいらしい。
ちなみに、俺は人前じゃなくても恥ずかしい。
そして、月海が急かしたのとほぼ同じタイミングに―――――――――
『ちょっと、誰か黒魔術の本、貸してくれないか?』
『完全犯罪の良い案ある奴、手を挙げて~』
同級生たち発案の『岡崎翔殺人計画』は本格的に進み始めたらしい…………。

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