おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

第9章 「嘘を紡いだ唇を」(part5)
「相斗にぃ、おかえり!!」
僕が忍さん達の住む家の扉を開くと、待ちかまえていたかの如く、金髪の男の子が僕に抱きついてきた。
この子は忍さん達の弟で優(ゆう)という名前だ。
「優、兄さんには抱きついてくれないの?」
忍さんが優に尋ねる。
「抱きつく訳ねぇーだろ。 相斗にぃは特別なんだよ」
「『特別』ねぇ……。 嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
「嬉しいの!? 相斗にぃが嬉しいと、オレも嬉しいよ!」
優が物凄く嬉しそうに笑った。
岡崎家の兄弟は見ていると、犬を飼いたくなる。
「………あっ、相斗にぃ、忍にぃ、お帰り」
僕たちの存在に気がついたらしい優の双子の弟、有(あり)が扉から顔を出した。
「ただいまーッ! 兄さんがいなくて寂しかったでしょ?」
忍さんが有に飛びつき、言った。
この人には、スキンシップ過多という言葉が非常に似合っている。
「………全ぜ…若干?」
有が最大限の優しさを込めた言葉を発した。
最初に「全然」と言いかけても、その言葉を飲みこめるのはすごいと思う。
というか、こんな変わり者たちと一緒にいて、よくこんな良い子が育ったなぁ……。
「だよねっ! 兄さんも寂しかったよ!」
忍さんが有に頬ずりをしながら、まくしたてる。
弟の体調の良し悪しを見抜く能力(スキル)よりも、人が困惑しているのを見抜く能力の方が必要だと思う。
「忍! 有を苛めるんじゃねぇーよ!」
ようやくこの惨状に気付いたらしい優が忍さんに向かって叫んだ。
……忍さん、まだ優に呼び捨てされてるんだ。 この感じだと、翔も呼び捨てのままだろう。
「嫉妬!? それなら、こっちにおいで! 優にもやってあげるから!」
「そういうことじゃねぇーよ! 有を苛めるな」
優の言葉を聞いて、渋々といった感じだが、忍さんが有を離す。
流石の有もこれ以上は耐えられなかったらしく、即座に忍さんから距離を置き、リビングがある2階へと続く階段を駆け上がっていった。
「今日は婆ちゃんがカレーを作ってくれたんだよ」
有がリビングを右に曲がったところにある吹き抜け部分から顔を出して言った。
「相斗にぃ、早く上がってよ」
「うん。 じゃあ、お邪魔します」
優に勧められるがまま、靴を脱ぎ、そのまま階段を上る。
「ん? 全員揃ったのかい? じゃあ、皿にカレーを盛るか」
リビングのすぐ側にあるキッチンから、白衣姿の紫色の髪をコンコルドでひとくくりにした美女――佑香さんがカレー皿を持って、リビングに現れた。
「………大丈夫。 カレーは婆ちゃんが作っていったものだから」
「よかった……!!」と、心の底から思いました。

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