おいでませ、助太刀部!!   野宮詩織 /作



第9章 「嘘を紡いだ唇を」(part11)



まぁ、兄貴と5年以上もの期間つるんでいて、この程度で止まってくれるならありがたい限りだ。

「分かった! じゃあ、深夜12時まででいいから! それでいい?」
「よくない」

朱里さんが常識的に答える。
深夜12時まで居座るというのは、「後、4時間以上、ここにいる」と同意義だ。

「だって、朱里、ズルいっ!」
「何が?」

兄貴が突然、だだをこね始めたため、朱里さんが不思議そうな表情をした。

「朱里は翔たちと一つ屋根の下で暮らしてるから、離れる辛さが分からないんだよーっ!! どうせ、タイミングを計って翔たちを襲うつもりなんでしょーっ!?」

兄貴が朱里さんの手から逃れようと手足をバタつかせながら叫ぶ。
隣の部屋や廊下辺りには響いてるんじゃないだろうか。

「なんつーことを言い出すんだ、お前は!!」

朱里さんが赤面しながら、兄貴の頭を鷲掴みにし、床に幾度も叩きつける。
床から出ているのか、はたまた兄貴の頭から出ているのかは不明だが、何かが陥没する音が聞こえる。

何というか……花薇の鉄球が床や壁、俺の頭蓋にめり込んだ時と同じ音だ。
あぁ、トラウマがこれ以上ないくらい、鮮明に蘇ってくる……。

「そのリアクション……図星だったの?」

陥没した床から顔をあげて、兄貴が朱里さんに尋ねる。
コイツ、本当に学習しないな……。

「んな訳、あるかァァ!!」

朱里さんが兄貴にチョークスリーパーをかける。
兄貴の「ギブギブ!! このままだと俺、死んじゃうよ!?」という声は全く届いていないらしい。

「あぅー? 朱里? どこ行っちゃったのー?」

廊下から変声期も来ていない年端もいかない男の子の声が聞こえた。

「兄ちゃーん、オレ、翔たちの部屋にいる!」

朱里さんが技をかけている手を緩めずに外にいる男の子――改め、朱里さんの兄、葵さんに向かい、叫んだ。

兄貴の口からビチビチと元気よく跳ねる半透明の物体が半分程度、出てきているのは幻覚だよな……?
コレは口の中に押し戻すべきなのか……?
その前に魂なのか……?

『嫌だよ! 俺、まだ死にたくないよ! 翔、助けて!』

……何故か、半透明の物体に助けを求められた。
とりあえず、口の中に押し戻してみるか。
よいしょっ、と……。

「あれ? 兄さん、何してたんだっけ?」

チョークスリーパーをかけられたままではあるが、ようやく兄貴が意識を取り戻した。



魂って、本当にあんな風に戻せるものなのか……。