おいでませ、助太刀部!!   野宮詩織 /作



第7章 「高校生には見えないんですけど!?」(part6)



「風葉先輩~!! 岡崎先輩にフラれました~!!」
「え!? 本当かい!?」
「本当なんですよ~っ!」

眸を探していると廊下から相斗と眸の声が聞こえてきた。
なんか嫌な予感がする……!!

「相斗!」
「あ、あれ? 翔?」
「それ以外の人間に見えるか?」

見えると言われたら、もう立ち直れないかもしれない。

「見えないけど……」

相斗が俺と眸を交互に見ながら言った。 しかも、すごい気まずそうな表情をしている。
よく考えてみたら、相斗は板挟み状態だと思ってるんだよな……。

「あー、勘違いしてるみたいだから一から「言い訳なんて聞きたくありません」お前は、何がしたいんだ!?」

眸はそんなに傷ついてるのか……!?
しかも、気付いたら昼ドラみたいな展開になってるぞ(ただし、性別は全員♂)!?

「そういえば、さっき、忍さんが必死の形相で翔のこと探してたよ。 今日、大学休みなんだってさ」
「俺、帰る!」

大学が休みだからといって、弟の高校に来ていい理由にはならないと思う。

「何、言ってるんだい? 眸さんをおいていくつもりかい?」

相斗が俺の腕を掴んで引き止めた。
兄貴に見つかったら、眸がどうとか言ってられる状況じゃなくなっちゃうから………!!
まぁ、でも、どうせハッタリだよな。

「眸さん、さっきの人が来たら、部室に全力で逃げてね。 殺しにかかってくると思うから」
「わ、分かりました」

え……? ハッタリじゃないのか……!?
この学園の警備員は一体何をしてるんだ!? いや、まぁ、警備員をなぎ倒すくらい軽々やっちゃいそうだけどな………。

「あっ!」

眸が俺の後ろを見て小さく声をあげてから走り出した。 流石、本来の性別が男なだけに、まぁまぁ足は早い。
あれ…? 眸が逃げたってことは……。

「Dear my brothers!!」
「やっぱり、お前か!! アホ兄貴!!」

後ろを振り向くとアホ兄貴が飛びかかってきた。
捕まったらヤバいから、ダッシュで逃げる。 相斗は眸と同タイミングに逃げだしていたらしい。 あいつ、謀ったな……!!

「翔、会いたかったよ~」
「俺は会いたくなかった!!」

それはもう壮絶に。
っていうか、これ、どういう展開!? 話ちゃんとまとまるんだよな!?

ごちゃごちゃ考えてても、捕まるだけだから、とりあえず逃げることに専念しよう!!
部室は鍵かかるし、隠れる場所も一応あるし、逃げ込むとしたら最適な場所だろう。

バタンッ(←部室の扉が閉まる音)

ガチャッ(←鍵を閉める音)

カチャカチャ(←ピッキングしてると思わしき音)

「おかえりなさぁい。 仲直りはしてないみたいだけど、メイドちゃんを追ってきただけ良しとするわよぅ」

中子がのんきに言った。
普段なら返事をするところなんだが、今はそれどころじゃない……!!
部室についている仮眠室のベッドの下に身をひそめる。 ありがたいことに掃除したばかりらしく、そんなに埃っぽくない。

ガチャッ(←扉が開く音)

「…誰?」
「誰っ?」
「誰?」

何も知らない花薇、深間、伊野が声をそろえて兄貴に問いかけた。
まぁ、当然の疑問だよな。

「突然だけど、翔はどこにいる?」

兄貴がそんな3人の言葉をスルーして、中子に問いかけた。

「秘密よぅ」

中子が空気を読んで黙っておいてくれた。 後で、ケーキでも奢ってやろうかな。

「岡崎を探してるのっ?」

深間が俺の兄貴だとはつゆ知らず、兄貴に話しかけた。
知らない人に話しかけちゃいけないって小学校で習わなかった!? あの教えはかなり大切だと思う。 特に深間のような外見の人の場合は。

「そうだよ。 どこにいるか知ってるの?」
「ううんっ! 知らないよっ」
「じゃあ、用は無いよ」

無邪気に知らないと答えた深間に、兄貴は満面の笑みを浮かべて手刀を振り下ろそうと手を上にあげた。
不覚! 兄貴は手段を選ばないとかいうレベルじゃないんだった!!

「ダメよぅ。 女の子に手をあげちゃ」
「あれ? なんで中子がいるの?」
「それも秘密よぅ」

深間に手刀があたる寸前に、深間の頭と兄貴の指の先の間に中子の白い手が滑り込み、深間は怪我をせずに済んだ。
ついでに言うと、中子の手には怪我1つない。

「…部長を虐めるなら許さない」

花薇が伊野に泣きながら抱きついている深間の前と兄貴の間に立ち、はっきりと言った。
――――――――――巨大なハンマーを持って。

このままだと、マジでヤバい展開になるな……。
背に腹は変えられない…!!

「アホ兄貴! 早く実家に帰れ!」

ベッドの下から這い出ながら兄貴に向かって叫ぶ。
これで注意は逸れるはずだ。

「翔ぅ~!! やっと、見つけた~!」

案の定、兄貴は表情を一変させてこちらへ飛びついてきた。 勿論、すぐに引き剥がしたが。



みんなの驚愕と冷ややかな目が痛かったです。