おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

第5章 「大気圏突破も出来るのか?」 (part4)
「陸上で俺と勝負したい? やってやってもいいけど、俺に勝てると思ってんのか?」
林に事情の一部(依頼だということは伝えてないが)を説明すると、あっさり首を縦に振ってくれた。
今回は物事がスムーズに進んでくれるから楽だな。
「後で吠え面かくのはお前だぞ」
桜は自信に満ち溢れた声で「勝つ」ことを宣言した。
「桜さん、梓に難しい言葉は通じないっスよ」
「難しい言葉なんて使ってないぞ?」
「いや、多分、『吠え面をかく』の意味分からないと思うんっスよね」
ちなみに、吠え面をかくというのは「べそをかく、泣きっ面をする」という意味だ。
言葉の意味を説明できない人はいるかもしれないが、高校生にもなればなんとなくでも意味は知ってそうなものだが。
「吠え面ってなんだ?」
「そんな事も知らないのか? それなら、さっきの言葉を簡単にしてもう1度言ってやるよ」
桜にしては珍しく、説明する気はあるらしい。
「あたしに負けて泣きべそをかくのはお前だ」
かっこいい!!
あいつは俺の知り合いの中で一番男前かもしれない。
「フン!! 結果は既に目に見えてるけどな!!」
俺にも見える。
敗北する林の姿が浮かぶぞ。
と思うが、かわいそうだから言わないでおく。
「それじゃあ、始めるっス。 位置について……用意」
ピストルの音が鳴り響く。
ピストルの音と同時に桜と林が走り始める。
2人は風を切るどころか、風と同化しているかのようなスピードで進んでいく。
意外と均衡しているように見えていたが、100M地点で桜があっさりと林を引き離した。
そのまま番狂わせが起こることもなく、桜が先にゴールした。
「口ほどにも無い奴だったな」
「ま、負けただと………?」
負けて落ち込んでいる林の横で、桜は仁王立ちをしていた。
………本当に強ぇーな。
「でも、そんな事は気にしないのが俺だぜ!! 次に行くぜ、次に!!」
負けたというのに反省の兆しがまったくない。
ある意味、凄いと思う。
「次は誰と勝負すればいいんだ?」
林の問いかけに対し、伊野が即座に一歩前へ出て口を開いた。
「私と1500M走で勝負して」
伊野の言葉を聞いた瞬間に、林が余裕の笑みを浮かべた。
悪役の笑みにしか見えない。
しかも、これは負けるフラグではなかろうか?
「いいのか? 俺の得意競技だぜ~?」
「練習不足のあなたに負けることはない」
悪役にしか見えない林に伊野はきっぱりと言い放った。
……こいつも無駄にカッコいい。
俺の周りの女子は何故か男前な奴が多いな。
「んっ? どうかしたのっ?」
「何でもねぇーよ」
というか、このロリをのぞいたら、ほとんど全員が男前だな。
……ついでにいうと、現在進行形でどんどんたくましく成長していってるし。
「吠え面かいてもしらねぇーからな!!」
林は『吠え面をかく』という言葉の意味をやっと覚えたらしい。

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