おいでませ、助太刀部!!   野宮詩織 /作



第9章 「嘘を紡いだ唇を」(part7)



「大丈夫だ。 お前なら落ちても死にはしない」
「嫌だよ!! 落ちたら痛いでしょ!?」

佑香さんの非常な発言に忍さんが反論する。
普通の場合は3階から落ちたら「痛い」では済まないだろう。

「いいから落ちろ」
「お前は地獄に堕ちろ、ババア!!」

忍さんが半泣き状態のまま、佑香さんに反論し続ける。
また禁句を言った辺り、学習はしていないらしい。

「四の五の言わずに落ちろ。 硫酸かけるぞ」

佑香さんが忍さんの手をヒールで踏みにじりながら、とんでもなく恐ろしい事を言う。
この家には、佑香さんや光さんの仕事や趣味柄、硫酸などの危険な薬品が本当に存在しているため、なおさら恐怖を感じる。

「無理! 後、4年経ったら、ハーレムを築くっていう夢があるんだから!」

佑香さんの足を押しのけて、忍さんが腕力だけで窓から部屋へと侵入する。
この家の人達は無駄に身体スキルが高いなぁ……。

「………4年?」

具体的な数字に疑問を感じたらしい有がカーペットの上に座っている忍さんに尋ねる。

「4年経てば、有と優が18歳になるからね」

年齢の壁よりも、もっと高い壁が存在していることを教えてあげるべきなのだろうか。

「旨っ! 流石、婆ちゃん!」

忍さんの安否など毛ほども気にせず、カレーを頬張っていた優が感嘆の声をあげる。
この子はこの子で人間性に問題があると思う。

「佑香!」
「何か用かい?」

白衣を着ていて、翔と忍さんを足して二で割ったような美青年――翔たちの父親である光さんに呼ばれたため、佑香さんが返事をする。

「早くご飯を食べさせてよ」
「あぁ、お前のこと、すっかり忘れてた」
「放置プレイ!? 放置プレイだと思えばいいんだよね!?」


佑香さんの冷たい発言に光さんが目を輝かせて、嬉しそうに悶えている。
忍さんの性格はこの人に似てしまったのだと思う。

「ほれ、早く食え」

佑香さんが光さんの前にカレーを置く。
――――ただし、普通のカレー皿ではなく、犬用の餌皿に盛られたカレーだ。

…………この家ではいつものことだけど、何度見ても違和感を感じる。
というか、違和感しか感じない。

ちなみにコレは虐待ではなく、佑香さんの趣味だ。

「わーい!! 佑香、あーんして食べさせて!」
「嫌だね。 自力で食え」
「分かった! 佑香ってば鬼畜!!」

前言撤回。 7割方、光さんの趣味だ。

「ちょっ、よく考えてみたら、手が使えないとカレーが食べられないよ?」
「その前に、犬小屋に繋がれていること自体がおかしいことに気付いてますか?」

『手を使わないとカレーが食べられない』ということよりも大切なことを伝える。
光さんは現在、リビングにある簡易型の犬小屋に首輪から伸びる鎖で繋がれている。 そして、目の前には餌皿。
本人の雰囲気と相まって、まるで本物の犬のような状態だ。

「………お母さん、食事中くらいお父さんを解放してあげたら?」

有が佑香さん達に提案する。
確かに、食事中に「佑香、罵って~」などという声が聞こえてくるのはいただけない。

「私は全然構わないんだが……」
「………お父さんが嫌がってるの?」



「……本当にこの家族、変わった人多いなぁ」と、しみじみと感じました。