おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

【part12】
「俺の見た目じゃ引き立て役位にしかならないぞ?」
兄貴が変態だ、ということを否定しなかった朱里さんが真面目に答える。
兄貴もそうだが、どうにも俺の周りは自分のルックスの良さに気がついていない人が多いなぁ。
もちろん、相斗や中子、親父や四月朔日のように自覚しているのもいるけどな。
「朱里も翔クンも忍も自覚が無さすぎよぅ」
中子が肩を竦めながら呆れ顔でそう言った。
俺が自覚してないこと…………?
もしかして――――
「「「俺って、自分で思ってる以上に変態?」」」
俺と兄貴、朱里さんの発した言葉が見事にハモる。
こんな長い文、ハモることなんてあるんだな…………。
何より兄貴にうっすらでも自覚があったことに驚きを隠せない。
「それもそうだけど、見た目の話よぅ」
やっぱり否定してくれなかった中子だが、どうやら俺らの推測自体が間違っていたらしい。
「みんな自分が思ってる以上にカッコいいと思うわよぅ?」
中子の言葉にいつのまにか後ろに立っていた松が頷く。
「そうだよ、翔。 翔はカッコいいし可愛いよ!!」
兄貴が俺にしがみついたまま、言う。
ダメだ、こいつに他人の言葉は届かない。
「おい馬鹿忍!」
「何? あと、俺は馬鹿じゃないよ」
四月朔日が兄貴を叫ぶような声のボリュームで呼ぶ。
兄貴にしては珍しく、罵倒に反論する。
いつもは何を言われてもスルーなのに。
「文武両道、容姿端麗、性格優良な俺の方が素晴らs「相斗もこっちおいで」無視か」
珍しく身内以外の話に耳を傾けた兄貴だったが、四月朔日が話し始めた瞬間飽きたらしい。
今は俺と朱里さんを左右に抱えつつ、相斗を背中に乗せようとしている。
ツッコミどころが多すぎてどうしたらいいか分からない。
「どうしたの? あ、ツッコミが追いつかなくて困ってるの?」
兄貴が勝手に他人の思考を読み取る。
ここまで来ると「凄い」を遥かに飛び越え、「気持ち悪い」に近い。
「翔の頼みとあればしょうがないなー」
兄貴がそう呟いてから、一息吐きすぐさままくし立て始める。
「玄さ、『文』はともかく『武』の方、滓みたいなものだよね? しかも、文武両道と容姿端麗って『才色兼備』っていう言葉だけで表せるし、性格優良なんて言葉無いから。 合ったとしても、性格劣悪の方が玄(遥か)に合ってるし。 俺、今、上手いこと言った!!」
上手いこと言えた喜びに兄貴が嬉しそうに言葉を弾ませる。
兄貴の言葉は他の誰かが糾弾される側の立場にあっても殴りかかるレベルにムカつくだろう。
何だかんだ冷静な四月朔日も例外ではなく。
「離せ、中子!! あいつ、殴るッ!」
桜が乗り移ったかのような形相で兄貴に殴りかかろうとしていた四月朔日の腕を中子がつかみ、動きを制限する。
最終的に手当てしてもらえた左手に巻かれた包帯を見ると、殴っても罰は当たらなそうだが、兄貴の反撃に遭うこと請け合いだ。
そもそも、かわされる可能性大だな。

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