おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

第8章 「吾こそ翔の正妻なのじゃ!!」(part17)
「では、さっそく取材に入らせていただきますね」
「構わない」
伊野がソファに座ったまま答える。
客である風文が立っているのに、部員である伊野が座っているというのはどうかと思う。
「最初に……えーと、春の文化祭の出し物は何をする予定ですか?」
風文は待遇が微妙に悪いことを気にする様子もなく、伊野に質問を投げかけてきた。
「コスプレ喫茶の予定」
伊野が淡々と答える。
こいつ、実はアンドロイドか何かなんじゃないだろうか?
「文芸部と共同開催という噂は本当ですか」
「本当。 それにしても、轟さんと質問内容被ってるけど大丈夫?」
伊野が珍しく能動的にしゃべった。
というか、何で轟の名前が出てきたんだ……?
あっ、そうか!! 轟は第1新聞部に所属しているから、風文と轟は商売敵といったところなのだろう。
伊野の問いを聞いて、風文がほんの一瞬、顔を歪めた。
「じゃ、じゃあ、岡崎先輩の本命は誰ですか!?」
「なんで文化祭の話からその話になったんだ!?」
可笑しいだろ!! 文脈云々以前の問題がある。
「伊野先輩、この質問はされましたか!?」
「されてない」
伊野が何事もなかったかのように涼しい顔で答えた。
うーん……。 そもそも俺に好意的な感情を持っている人があまりいない気がする。
強いて言うなら、月海と眸くらいなものだろう。
他は明らかに、俺が狼狽する姿を見て楽しんでいるだけだ……!! 特に中子と松はその筆頭だろう。
「勿論、兄さんだよね?」
扉越しに兄貴が尋ねてきた。
「お前は選択肢に入ってすらいねぇーよ」
なにが楽しくて実の兄を恋愛対象に入れなくてはいけないのだろうか。
「それなら、ボクですよね?」
眸がわずかに潤んだ瞳をして、上目遣いで尋ねてきた。
こういうのって、反則だと思う。
って、危なかった……!! 不覚にも一瞬ときめいてしまったが、眸は男だ……!!
「どうかしたのっ?」
「大丈夫だ。 全く問題ない」
深間が心配そうに顔を覗き込んできたため、平静を装って答える。
「やだぁぁぁ!! 兄さんでしょーっ!?」
兄貴が勢いよく扉を開けて叫んだ。
ん? 相斗はどうしたんだ?
「違う! 現実を見ろ!! 相斗はどこに行った!?」
「やだぁぁぁぁぁぁぁ!! 兄さん以外を選ぶなんて認めないよぉぉぉぉ!?」
俺の質問も耳に入らないくらい動揺――というかパニックに陥っている兄貴が俺の肩を掴んで思い切り揺さぶる。
うっ……。 酔いそうだ……。
「風文!! とりあえず、本命とか以前に恋愛感情を持っている奴はいないからな?」
「兄さんは持ってるよー!?」
「お前はちょっと黙ってろ」
まだ諦めきれていないらしい兄貴が泣きながら、俺の言葉を否定した。
こいつは、一体、何がしたいんだろうか。
「えーと……『本命とかはいない』
風文が文章を読み上げながら、中子から返してもらったメモに書き込んでいく。
「『――全員、遊びだから』ですね?」
「違う!! 俺はそういうことが出来「やだっ!! 翔のことは兄さんが一生養むぎゅっ!?」いい加減、黙れ」
兄貴の声が会話に支障を来たす程、大きかったため、再び口を塞いで黙らせる。
じたばたと兄貴が暴れていたが、それを力ずくで押さえつけて、しばらく経つと、諦めたのか大人しくなった。
「冗談ですよ。 記事は捏造しておきますから安心して下さい」
「安心できるか! 堂々と捏造って言っただろ!?」
今更だが、この学園は奇人変人が多すぎるな……。
「事前取材はこれで大丈夫なので、当日の方もお願いしますね」
「うんっ。 轟さんと時間が被らないようにしてねっ」
深間が子供っぽい無邪気な笑顔を浮かべて、風文に言った。
「え……? 当日も轟先輩来るんですか?」
「うんっ!」
深間が無邪気な表情を崩さず、頷いた。
…………無知って怖いな。
第8章 「吾こそ翔の正妻なのじゃ!!」
グダグダですが完!!

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