おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

第9章 「嘘を紡いだ唇を」(part10)
「翔、今日だけでいいから、実家に戻ってきて!!」
「何でだ?」
「ハーレムを作「断る」最近、冷たいねー」
別に最近に限ったことでもない。
「家族ですか……? それなら、大丈夫です」
「何処が?」
さっきまでしていた話を引きずり出してきた眸が言った。
確かに、兄貴の言う通り、眸は家族どころか血縁関係にあるわけでもない。
「ボクは将来、そちらにお嫁に行きますから! よろしくお願いしますね、お義兄様」
「あ?」
眸の言葉を聞いた瞬間に、文字通り、兄貴の目の色が変わった。
「お味噌汁とかちゃんと作れますよ!」
眸が輝かんばかりの笑顔で兄貴に語りかける。
非常に愛らしい笑みではあるが、今、その表情をするのは死に直結してしまう……!!
「おい、ストップだ」
眸の服の裾を軽く引っ張り、兄貴に聞こえない程度の大きさで声をかける。
「どうかしましたか?」
眸がキョトンとした顔で答えた。
コイツ、超鈍いな……。
まぁ、でも、最近は飯の面倒や家事もかなり手伝ってくれるお礼として助けてやるか。
「あれ? 岡崎先輩、どうかしたんですか?」
何も言わずにベッドの方へ向かった俺に疑問を持ったらしい眸に問いかけられたが、それに応えることなく、そのまま布団の中に潜り込む。
今朝、洗った後に天日干しをしたお陰か、柔軟剤の無駄にいい香りとフカフカした感触が眠気を誘う。
「……翔…………の嫁? 何言ってるの!? 翔は嫁だよ!!」
「違う」と否定したいのをグッと堪えて、布団から顔を出す。
朱里さんにも連絡したし、とりあえず、準備万端だ。
「ふざけたこと抜かしてると、殺すよ?」
「おい」
キレて、完全に殺戮モードに入っている兄貴に声をかける。
「ん? 何?」
キレすぎていて、周りが見えなくなている可能性も懸念していたが、それは杞憂に終わったようだ。
「お兄ちゃん、寂しいから、一緒に寝て欲しいな……?」
事後処理がこの上なく大変だが、眸を助けるためだと思えば安いものだろう。
「喜んで!! 夜通し、色んなことをしちゃうぞ☆」
「オレがな」
「げっ、朱里!?」
俺に飛びつこうとしていた兄貴の首根っこを朱里さんが掴んでいた。
「翔、時間稼ぎお疲れ様」
朱里さんが笑顔でこちらに向かい、ねぎらいの言葉をかけてくれた。
「朱里、俺にそっちの趣味はないんだ」
「ダウト。 光さんの子供なんだろ?」
「ん? なんか話が食い違っているというか……何かおかしくない?」
朱里さんの返事に兄貴が疑問の色を示した。
「拷問とか大好きだろ?」
「嫌いだよ! だって、痛いし、弟いないし!!」
弟がいればいいのだろうか。
ちなみに、付き添ってやる気は毛ほどもない。
「遠慮するなよ。 オレら、友達だろ?」
朱里さんの言葉を聞いた瞬間、懐かしきヤンキーA~C先輩のことを思い出しました。

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