おいでませ、助太刀部!!   野宮詩織 /作



第5章 「大気圏突破も出来るのか?」 (part2)



「伊野さんと桜さんってそんなに速いんっスか?」

橘が尋ねた。

「実は2人共物凄い速いぞ」

桜は流石という感じだが、伊野は体育苦手そうなのに意外だ。
猛スピードで走っているところなんて全く想像できない。

「私が走るのは決定なの?」
「決定だよっ!!」

伊野の問いかけに深間が答えた。

というか、伊野が走ってくれなかったら勝負になる奴なんていないんじゃないだろうか?
足が速いなんていう情報は始めて聞いたが、四月朔日がいうんだから本当に違いない。

四月朔日の情報は、早い、正確などなど結構定評がある。
普段は一体、どんな情報を教えているのか少し気になるが、それを聞くのは後回しにしておこう。

「桜さん、今日は学校に来てないんじゃないっスか?」

橘がもっともな質問をした。
今日は休日だから来ているのは部活に所属しているか補習を受ける人くらいだ。
桜は部活に入っていないし、学年1位だから補習を受けているはずもない。

「…歩、学校に来てるはず」
「何で知ってるんだ?」
「…部室に来る途中、見かけたから」

花薇の目撃証言からしてまだ学園にはいるだろう。
でも、一体どこにいるのだろうか?
この学園は無駄に広いからなぁ………。

「生徒会室にいるよぉ」
「うわぁ!! ビックリしたじゃねぇ-か!」
「ごめんねぇ。 驚かすつもりは無かったんだよぉ」

一条院がいつの間にか俺の背後に立っていた。

「…桜ノ宮。 どうかしたの?」
「いやぁ、緑香ちゃんが水筒忘れていったから届けに来たんだよぉ」

花薇が自分のカバンを漁り始めた。
しかし、水筒は入っていなかったらしく、一条院から水筒を受け取りカバンの中にそれを入れた。

「…ありがとう。 それで、歩は本当に生徒会室にいるの?」
「どういたしましてぇ。 本当にいるよぉ。 仕事が残ってるって言ってたもん」
「…生徒会室に行って歩を呼んできてみる」
「私も一緒に行くよぉ」

そう言って花薇と一条院は駆け足で生徒会室に向かって行った。

~10分後~

「緑香から話は聞いた。 別に走ってやっても構わないぞ」
「本当っ!? ありがとうっ!!」

桜は思いのほかあっさり快諾してくれた。

「橘っ!! 今日、林は学校に来てるっ?」
「来てるっスよ。 グラウンドにいるはずっス」

深間と橘が話を着々と進めている。
しかし、驚いている人が約2名いた。

「今日やるの!?」
「あたしジャージ持ってないぞ!?」

伊野と桜だ。
2人共、今日実行するとは思っていなかったらしい。
そりゃ、突然言われたら心の準備も着替えの準備も出来てないよな。

「ジャージならロッカーに予備が沢山あった筈っスよ」
「それなら問題ない」
「それなら大丈夫だな」

前言撤回。
心の準備は必要としていなかったらしい。
現にジャージがあると知った瞬間に「今日でもいい」って言い出したしな。

「そしたら、伊野ちゃんと歩ちゃんはジャージに着替えたら玄関に来てねっ!!」

~10分後~

「秋牙、着替えてきた」
「あたしも準備出来たぞ」

10分後に戻ってきた2人はさりげなく本気モードだった。
伊野はいつもは腰のあたりまで流している髪を高い位置でポニーテールにしているし、桜は前髪をピンでとめている。
この髪型の変化は「本気で走る宣言」だろう。

「それじゃあ、行くか」

桜が先陣をきって歩き出した。
伊野も桜のすぐ後ろを歩く。

「依頼した俺が言うのも何なんっスけど、張り切りすぎじゃないっスか?」
「否定できないな」

本当に張り切っちゃってるしな。
スポコン小説に切り替わりそうな勢いで走ってくれそうだ。

「おい、橘!!」
「はいっ!? 何っスか!?」

桜に呼ばれ、ビクビクしながら橘が返事をする。
確かに桜は目つきと口が悪いから何もしてなくても怖いよな。

「お前がいないと陸上部員たちに不審に思われるから、あたしたちより早く歩け」
「分かったっス!!」

そう言って、橘は早足で桜たちの元へ駆け寄っていった。



今回、桜による被害は俺じゃなくて橘にいきそうだ。