おいでませ、助太刀部!! 野宮詩織 /作

第9章 「嘘を紡いだ唇を」(part9)
「分かった!! じゃあ、裸エプロンで添い寝してあげる!」
「もっと嫌です」
忍さんが健気にフォローをいれてくれた有の言葉を華麗にスルーして言った。
この人は一体、何が分かったんだろうか。
「ん、分かった。 じゃあ、明日、送っていく」
パチンッという軽い音と同時に、佑香さんが携帯電話を閉じた。
仕事関連の電話かな……?
「忍、朗報だ」
「何?」
忍さんの返事の後、佑香さんが一呼吸置いてから、内容を伝えた。
「翔が『明日、ちゃんと来れるなら相斗を泊めてもいいぞ』だとさ」
「あうっ!? 大変だ! 翔がメイドと2人っきりになっちゃう! ちょっと行ってくるね!」
佑香さんの言葉を聞くや否や忍さんが脱兎の如く、駆け出していった。
翔と眸さんを2人っきりにしたくないと思うなら、僕を寮に帰してもらいたい。
……とりあえず、翔にメールくらいはしておいてあげよう。
「あっ!」
忍さんが突然、大きく声をあげてから、こちらに戻って来た。
「帰ってきたら、ちゃんと約束通り、一緒に寝てあげるからね!!」
笑顔で危険なことを言い残し、忍さんが再び駆け出していった。
「お願いだから、戻ってこないでください」と言いたかったが、その言葉をグッと飲みこむ。
「……佑香さん」
「何だい?」
「僕は一体、どうすれば……?」
忍さんに対抗できる数少ない人に相談を持ちかける。
「普通にしてな。 帰ってきたら、馬鹿なこと出来ないように、お灸を据えておくから」
佑香さんが目と右手に持ったメスをギラつかせながら、そう言った。
忍さんは実験台(モルモット)にでもされるのだろうか。
でも、それはこの家だと日常茶飯事だしなぁ……。
* * * * * * * *
※翔視点です。
「岡崎先輩。 いい加減に大人しく、口を開けてください」
「いや、自分で食えるから!!」
相斗が「実家の方に泊まる」とか言い出したせいで、眸と2人っきりで放置されてしまい、今に至るわけだ。
「折角、2人っきりになれたんですよ? このくらい、大丈夫です」
「嫌だ!」
いくら見た目が可愛いからといって、男に「あーん」とかしてもらっても嬉しくない。
実を言うと、さっきまで月海、中子、松もいたのだが、朱里さんがつまみ出してくれた為、現在は3人とも大人しく帰路についている。
「……分かりました。 ボクも腹を括ります」
眸が妙に強い意志のこもった目をして、宣言した。
諦めてくれたのだろうか……?
眸はビシッという音が聞こえてきそうなほど、鋭く窓を指差した。
「次、食べてくれなかったら、僕はそこから飛び降ります!!」
「待て! 早まるんじゃない!!」
俺の言葉などに耳を貸さなかった眸は何も言わずに、箸でトンカツをつかみ、俺の口の近くに運んできた。
「はい、あーん!!」
眸が切羽詰まった表情で、箸をグイグイと前に差し出す。
正直言って、超怖い。 いや、怖いとかいう次元を超えていると思う……!!
「うっ……。 一回、だけだからな!」
プライドを捨て、トンカツを口に運ぼうとした瞬間――――
「いけませんッ!!」
そんな声と共に、扉が勢いよく開いた。
「翔に『あーん』するのを許されるのは、家族だけだよ!!」
「お前らにも許した記憶はないけどな」
兄貴にツッコミを入れる。
…………というか、なんで兄貴がココにいるんだ?

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