現実逃避超空間

作者/ 風そら



17



翌日――


何をきっかけに寝たのかはよくわからないが、取り敢えず目が覚めたときには寝袋の中でうずくまっていた

もぞもぞと芋虫のように動きながら上半身を出す


あたりを見回すと天井付近に一列に並んでいる小さな窓から漏れる光で、
すごい量のホコリがぷかぷかと浮いているのが分かった

「ウフォッ、ゲホッ!!」
思わず咳が出る


…さすがにここに長居はできねぇな


昨日のトッドとその部下どもはそこらへんに投げたのだが、まだ血の匂いが漂っている

倉庫の角っこに美佳のものと思われる寝袋があった
スタスタとそちらの方へ歩く


『ズッチャ……』
「誰だ!!!」

音のした方を振り返り、銃を構える



視線の先は直人だった

「お前かよ…」
「放っておけ」

それは直人を対象としているのか美佳を対象としているのかはわからなかったが、念のため二人から離れる


自分の寝袋の上に座って口を開いた

「今日から裏世界に入ろうと思うんだ」
「……」

直人は応答しない
が、YesだろうがNoだろうが関係ない

行くと決めた


「美佳の話が本当だったら、そこはTPウィルスの実験場だ
 つまりTPウィルスそのものもある」
「だからどうした。お前現実と【SPACE】をごっちゃにしてないか?

 いいか、TPウィルスはもう既に現実世界に存在する
 だが、感染した人間がいるのは今この【SPACE】内だけだ

 裏世界に潜り込んで、運よくCSAをぶっ潰したとしても、現実世界には何の影響もない」
「それはどうかしら」

「!」

反射的に上を見上げる


そこには大鎌を持った美佳が立っていた

「あたし達みたいな子供にTPウィルスに感染されたCSAが全滅する確率は0に近い…いや、0よ

 あくまでも彼らはプロのテロリスト集団。「部」だとか「尉」だとかを作るほどだからね」

「でも全部が全部クソ強いわけじゃない」
どんな大部隊だろうと必ず下っ端というものが存在する

「裏世界は広いんだし、ちょっとずつ進んでけば勝率も…」

「下っ端を倒したところでなんにもならね――」
直人がそう言いかけた時だった





『ピ――――――――――――――――――――』


無音



いや、音が大きすぎるのだ

一気に鼓膜が叫んだ
とっさに両手で耳を覆う



美佳が何かしゃべっているが、何言っているのか聞こえない


『おはようございます、人質の皆さん
 CSA統括管理部部長の渡辺です』



大音響の次に耳に入ってきたのは、機械変換された男の声だった