現実逃避超空間
作者/ 風そら

73
「……ほぅ」
伊藤が顎を上に持ち上げ、感嘆の声を上げた。
「格の差を考えれば絶対に止めれぬはずだが。よくもったな」
悠斗はニッと笑って「当たり前よ」と自慢げに言った。
「遅い、あと三分早く来なさい」
美佳はそういいながらもすでに大鎌を取り出している。
咲子も異議なし、といった様子である。
「ま、好きにしな」
伊藤はそういいつつ上に跳ね上がった。すかさず咲子が水圧銃を放射する。
噴水が巻き上がりながら、跳躍が最高点に達すると、伊藤はバッと全身を炎で包み込み、一気に美佳に向かって落下した。
「っよッ!」
悠斗は腕を美佳のいる方に突き出すと、伊藤の着弾点に炎の円盤を作り上げ、紫炎を弾き返す。
『ズドドドドドドドドッ!!!』
「!!」
円盤の上でもう一度跳ね上がった伊藤は、クルクルと空中回転しながら弾丸を乱射した。
乾いたコンクリートに、次々と炎がぶつかる
『ドフッ』
「ッ!つ!!!」
一発が悠斗のわき腹をかすめた。間をあけることなく白いTシャツがクレ内に染まっていく。
が、数秒後には出血は止まり、傷も完治していた。
「このやろーやりあがったな!」
悠斗は足を踏み込むと、伊藤と同じ高さまで跳ね上がった。
二人がほぼ同時に腕を突き出す。
『ドゴオオオォォォッ』
二つの腕から火炎放射のように炎が噴射され、接点からは目に見えるほどのエネルギー波が噴き出した。
「ぐっ…!!」
紫炎は金の炎をゆっくり着実に飲み込んでいく。
とその時、伊藤の背後には鎌を振りかざした美佳がいた。
『ズシャッ!』
思いっきり鎌を振りおろし、伊藤の背中からは鮮血が噴き出した。と同時に紫炎はその威圧を弱める。
すかさず悠斗は伊藤の胸に向かって火炎弾をうちはなった。
『ゴッ!!』
鈍い音と共に伊藤はコンクリートにのめりこんだ。着地点から白煙が上がり、美佳と悠斗は着地する。
だが、伊藤はすぐに煙の中から飛び出して、一気に美佳との距離を縮めた。
「っ、美佳!!!」
悠斗が叫んだのは一足遅く、伊藤は容赦なく美佳のみぞおちにアッパーを食らわせた。反動で美佳が空中に舞い上がる。
ドサッ、と美佳が落ちると同時に、伊藤の姿が鮮明に映りだした。
見るとその腕は、紫ではなく、黒い焔で覆われている。
「美佳!」
悠斗は美佳の元へと走った。――出血がひどい。
悠斗はTシャツを脱ぐと、それを縦に折って美佳の腹部に巻き付けた。
「残念だな、致命傷のはずだ。なんせ黒、だからなー」
「…てっめぇ……!!」
悠斗は立ち上がり、全身に炎をまとった。咲子も目に怒りをあらわにしている。
伊藤はふっと笑った。
「なっにがおかしいッ!!!!!」
悠斗は叫んだ。
伊藤は笑みをその顔に残したまま冷たく言った。
「お前たちがどんなに憤ったところで、そいつは助からないし俺を倒せはしない。あばよ」
伊藤が後ろを振り返り、ひらひらと手を振った時、聞きなれた声が聞こえた。
「それはどうかな」

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