現実逃避超空間
作者/ 風そら

25
現実世界、総合制御センター中央管理室――
「これですね…」
事務椅子に座り、何十ものパソコンの画面の一つを眺めていた若い男が笑みを含みながら言った。
男が指差す先には赤い点。
「そうみたいだな」
後ろで立って眺めていたリーダー格の男が、ポケットに手を突っ込みながら言った。
「どうします?幕僚長。『候補』として今のうちにとらえたほうがいいのでは?」
若い男が画面から顔を外し、リーダー格の男を見上げた。
「確かにあいつは感染『候補』だが、無理やり連れてきて感染したまま逃げられては無意味だ。まずは様子見だな」
リーダー格の男は後ろを振り向くと、ドアのほうに向かって歩き出した。
「様子見、といいますと?」
リーダー格の男はドアの前で立ち止まった。しかし、顔はこちらに向けない。
「人質管理部の中から2,3人戦闘員を送れ。殺られたら遺体回収班に任せる」
「しかし執行部からの許可が…」
若い男が言いかけた時、目の前にはリーダー格の男の顔があった。
音もない高速移動――
「いいか、執行部が何と言おうとお前は俺の言うことだけを聞けばいい」
ギロッとした黄色の瞳が圧迫感を感じさせる。
「か、かしこまりました…」
若い男はそのままくるりとパソコンの画面に顔を戻した。
「くれぐれも殺すなよ」
リーダー格の男はそういって手を振ると、管理室を出て行った。

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