現実逃避超空間
作者/ 風そら

37
「コンバーターは…」
(!!)
ルティアはさっと建物の後ろに隠れた。
真昼だというのになんだか薄暗い。
東京にもこういう場所があったのか、とルティアは思ったが、そんなことを考えている場合ではない。
「…近日中に取れるのか?」
声の主は見えないが、足音で分かる。
こっちに向かっている。
ルティアはもう一歩、奥に隠れた。
ここで見つかってはまずい……
「さぁね、幕僚長が交渉部に入って首相と直に話した、って聞いたけど」
答えたのは若い男のようだった。
「まじか、お前情報通だな」
答えたのがさっきの男であった為、二人組で歩いてると推測される。
現に足音はそう大きくない。
「アンタは表、俺は裏で動く派だから」
「それ、お前が弱いだけだろ」
「ッ!てめぇ…!」
そこで男は止まった。
いや、そんな気配がした。
「どうした?」
若い男が言った。
見つかったか…?
ルティアは身体に力を入れた。
「テレスの奴、結局出たのか?」
ルティアの首筋を一滴の汗が流れた。
「何に? あぁ、あの候補試しか。幕僚長に怒られて出てないよ。
てか、なんで今?」
候補……
あの悠斗とかいう小僧の事か…?
「それなら誰が…?」
ルティアは息をこらえる。
「俺だ――」
次の瞬間、影が落ちてきた。
ルティアのいる角度からも十分見える、すぐそこの道路の上に。
と、その時右頬の後ろ部分が熱くなっていることに気付いた。
右手でスッと触って、眼の前に持ってくると、指先は赤く染まっていた。
「ッ!!!」
思わずしゃがみこむ。
鋭い痛みが襲う。
右頬後部がスッパリ切れていた。
ルティアは落ちてきた影を見あげた。
「……幕僚長…」
「…」
二人組の男は立ちすぐんでいる様子だった。
影はこちらを向いていた。
鋭い、軽蔑するような目線で――

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