現実逃避超空間

作者/ 風そら



79



「おい、お前さん、目を覚ませ」
ぼやける視界の中で、白水の顔がうっすらと映った。
痛む腰に鞭を打ち、気合で上半身を持ち上げる。


辺りは黒かった。


おそらく爆発の影響で焦げたのだろう。
そして悠斗は眠る前の一瞬を思い出した。

「っ、美佳は!?ルティアは!!?」
不意に頭が叩き起こされ、声を上げる。

「心配するな、わしが引っ張り出しておいた。息はある」

そういうと、白水は向こうの方を指差した。
見ると、三人が焼き尽くされたビルの外壁に寄りかかって眠っているのが分かり、悠斗は安堵の息をつく。

「伊藤は?」
「あいつは逃げおった。悪いがわしには捕えられる余裕はねぇ」

いや、いいよ、と言葉を述べながら、悠斗はぎくしゃくと立ち上がり、辺りを見回した。
とりあえず今は先を急がねば。

「おっさん、あいつらが起きたら小島百貨店に来るように言ってくれ。俺は先に行ってるから」
「なっ、お前さん一人で行くのか?
 だが敵は厚いぞ、大丈夫か?」

悠斗はボッと右手に金の炎を噴き出した。ニッと笑って白水を見つめる。

「心配すんなって、とろとろしてたらファレンってやつが助からねぇんだろ?」
白水も笑い返し、親指を突き立てた。

それが合図だったかのように、悠斗は頷き、跳躍する。


金の炎は尾を帯びて空を舞った。



***



「……いやに遅いな」
小島百貨店を掲げる看板の下、渡辺はふぅむとうなって腕を組んだ。
制限時間である3分は、もう1分近くに少なくなっている。

もしかしたら死んでいたか、などという妄想を繰り広げているとき、
空からオレンジ色の発光体が落ちてくるのが視界に入った。

目を凝らしてそれを見る。
オレンジの光は次第に大きく、大きく、そして――











『ドゴオオオオオオオオオオオオオオオォォォンッ』





落下した。

パラパラと火の粉が舞いあがり、渡辺は顔を腕で覆い隠す。


煙る中で渡辺が目を開くと、炎上する道路の中から人影が現れた。






「おい、お前! ファレンて奴をさっさと出せ!」
渡辺は顔を覆っていた手を下ろすと、静かにその少年を見つめた。

「お前は……候補…」
「違ーう!俺は萩原悠斗だ!! ゆ・う・と!」

まるで駄々をこねる幼稚園児のように足を踏み鳴らした悠斗を見て、渡辺は笑った。
待っていたかのように「なにがおかしい!」と悠斗は怒鳴る。

渡辺は悠斗を見下ろしながら言った。

「なるほど。順番は逆ではあるがファレンの身柄、お前と交換で差し渡そう」

「いやだ!!!」


















思いもしなかった即答に渡辺は言葉が出ない。
悠斗はスーッと息を吸い込むとまた怒鳴った。

「俺は捕まりたくない!ルティアもわたさねぇ!ファレンを返せッ!」


今度は誇らしげに鼻から息を噴出すと、悠斗は腰に手を当てた。





「……お前は馬鹿なのか?それとも何かの後遺症でもあるのか?」
「馬鹿言うな!」

埒が明かないと判断した渡辺は仕方なしに提案をする。


「仕方がない。お前がこのドアを通ることが出来たときは無条件でファレンを解放しよう。
 しかし、三分の間にお前が突破できなかったときは、お前もファレンもそしてルティアも、身柄を拘束させてもらう」
「よっし!やってやろうじゃねぇか!!」

悠斗はパンチングポーズをとると、渡辺にジャブを出す。


「なら少し待て、戦闘員を呼び戻す」
「あ?お前と戦うんじゃねぇのかよ?」


無線機を取り出しながら渡辺は悠斗に不敵な笑みを投げた。







「俺に戦闘能力はないんでな」