現実逃避超空間
作者/ 風そら

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「テレス、それから庄司。今すぐ戻ってこい、客だ」
渡辺が無線機に向かって呟くと、雑音に紛れて不満が聞こえてきた。
「いえ、しかし今相羽、いえ、藤原香奈を捜索中なのですが。。。」
「構わん、とりあえずさっさと来い」
「了解です」
通信を終えた渡辺を見て、悠斗は明らかに不満げな顔を見せた。
「俺一人なのに二人で来るのかよ」
「念のため、という奴さ。うちでは必ずペアをくむように戦闘員が配備されている。
片方がやられたら、相手の強弱にかかわらずすぐさま撤退だ」
「ははーん、まっ、俺はどっちも倒すから別にいいけどな」
ボッと拳に火を灯した悠斗を見て、渡辺はちらと横を向くと呟いた。
「……着たようだ」
「おっ?」
悠斗もそちらのほうをみると、人影が2つ。
走りながらこっちへと向かっていた。
まもなく二人は渡辺の横に立ち、男の方が敬礼をする。
「テレス・フォードバット、只今参りました」
どうやらこの美男子がテレスと言うらしい。一方、もうひとりの女はゼェハァと息を切らし、声も出せない様子である。
「ごくろうだった、今からこの少年の相手をしてやってくれ。くれぐれも掟を破るな」
「え、まさかこのガキ相手に。。。?」
「そうだ、俺は仕事があるから終わったら呼んでくれ」
渡辺はそれだけ言うとポケットからリモコンらしきものをとり出すと、カチッと音を立てて消えてしまった。
テレスは、はぁっと深い溜息を漏らすと悠斗に向き直った。
「面倒だが。。。仕方がない、命令だらな。
どこのどいつだか知らないが、とっとと終わらせようぜ?どうせ残り少ない命なんだからな」
悠斗はその強い気迫に押されることもなく、ニシッと笑って全身を金炎で包み込んだ。
「望むところだっ!」
「――……あ」
今までうつむいていた少女は顔を上げるとそのまま悠斗の顔をじっと覗き込み、動かなくなった。
「?、どうした庄司?何かあったか?」
テレスが問うと、庄司という少女は視線を動かさずに言葉を放った。
「……惚れたわ」
「「は!?」」
二人の声が、こだまする。

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