現実逃避超空間

作者/ 風そら



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「副部長、少しよろしいでしょうか?」

会議が終わった後の部屋で、執行部副部長、滝川泰典に寄って来たのは研究部の相羽美沙だった。

相羽の身長は小柄な滝川でさえも見下ろせるほど低く、手は子供のように小さかった。


「何か用かね?」
滝川は、相羽が執行部副部長と直接話す権限があるほど階級がいいわけではないのを知っていたが、そこは無視した。

本人が階級を遠慮するだけで、研究員としての実力はかなり高いのだ。

「実は、ルティアさんを見つけ出すのにこれを……」
相羽は紙袋をごそごそとやった。相羽の長い髪が揺れる。

出てきたのは黒い、トランシーバーのような手のひらサイズの機械だった。

「これはなんだ?」
「超能力探知機です。この前から個人的に制作してたんですけど、これを外のあちこちに設置しておけば、
 ルティアさんの持っているような強い超能力に反応して知らせてくれます」

「大量生産はできるのか?」
「はい、本部にある機器だけでも問題ないと思います」


滝川は小さく笑った。


「よくやった、生産個数はそちらに任せる。終わり次第偵察部に連絡してくれ。手配はしておく」
「はい。では――」


相羽はルンルン気分で部屋を出た。


廊下に出るといつもは少し不気味に感じる赤いランプも青白い蛍光灯も、研究の成果をほめているように感じた。


今日は気分がいい。







が、窓のサッシに座っている一つの影があった。



伊藤だ――



本来ほとんど接触することない人質管理部と研究部。

やっていることは正反対なのだ。当然だ。



「お仕事ではなかったのですか?」
相羽は声をかけた。

正直言って相羽は伊藤が嫌いだ。


「あぁ、お前に言い忘れたことがあってね」
「なんでしょうか」

伊藤は窓から飛び降りてこちらを向いた。

「ルティアは捕まらねぇぜ」
「どうしてでしょうか?」

相羽は冷静な態度で真意をつかむ。


「アイツ、強いぜ」
「知っています」
「いや、それ以上にだ」

伊藤は顔を相羽に近づけた。

思わず顔を引く。


そこで相羽は初めて、伊藤の額に円形の傷跡があることに気付いた。

「で、あのなんとかっつー男、お前持ってるんだろ」
「…なぜそれを?」

あの男を研究部の一部が極秘に管理していることはボスのみが知る最高機密情報。

伊藤が知っているはずはない。


「わかるんだよな~匂いで。で、お前それをアメにするつもりか?」

「余計なお世話です」

相羽は一刻も早くこの場から立ち去りたかった。


スタスタと伊藤の横を通って歩いていく。



「待てよ」


後ろから声がかかった。





「アンタも感染してるんだろ?」
「!!?」





血の気が引いた。





なんで…



こいつ…



伊藤はクククと笑った。

「10億人に1人が3人とも日本人とは光栄じゃねーか。胸張っていこうぜ」




そういって伊藤は消えた。