現実逃避超空間

作者/ 風そら



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「それで、そのあとは?」
直人が遠慮がちに尋ねた。白水は別に気にしたそぶりもなく「逃げた」と答えた。
「わし、ルティア、ファレンの三人でじゃ。
 CSAは独自に裏世界と【SPACE】を行き来できる個人転送機を持っている。
 それを三つひったくって逃げたってわけ」
俺は金時の声を思い出した

――あとは俺たちは個人転送機でバイバイ。

「そんなに簡単だったんですか?」
美佳が聞く。白水は首を横に振った。
「いや、正確にはファレンが暴走し、たまたま倒れた奴のを取れたって話だ。
 その後追ってきた連中に右腕をやられてこの様だ」
白水は右腕の白衣の袖を上げると、包帯に巻かれた腕を見せた。
大きな赤い斑点がところどころついている。
誰も、何も言わない。白水は袖を戻して空を見上げた。
「まぁ、ルティアを見たってなら無事らしいな。
 ファレンの方もうまくやってると良いが……」

そうして、長い時間が過ぎた。
何分、いや何十分かもしれない。直人は口を開いた。
「ここで黙ってても始まらない。博士、俺たち裏世界に行きたいんですけど」
直人はそこで言葉を切った。
「分からないので博士も一緒に来てください」などとは到底言えない。
白水は高らかに笑った。
「あっちから【SPACE】に来るときは自分の思い浮かべた場所に飛べるんだが、こっちから飛ぶと必ず裏世界の固定位置に着く。
 そこは裏世界の中でも一番警備が強くて子供4人に突破できるような場所じゃない。
 人質の中にもそういうことをもくろむやつがいてな。
 あそこは『蟻地獄』ともいわれる」
「蟻地獄……」
思わず復唱した。
いや、だがそうすれば裏世界にはどうやって…って
「そういえばなんでCSAは俺を狙うんですか?
 伊藤がいるんだからそれとルティアで合わせてポーンは出来ないんですか?」
なんかリズムに乗ってみる。
「単純に適合率の問題だ。
 伊藤の力では地球をひっくり返すことはできん。だが、お前さんは適合率が100に等しい。
 CSA内で一時期、お前さんの力を全部引き出せたら宇宙がもう一個作れるとまで言われた」
直人が吹いた。
おい、なんだその「ありえねー!」って顔は。
「笑い事ではなく本当だ。
 CSAは全人類の適合率を把握していて、最も高いとはいかないが一番確保が簡単でなおかつ上位に入ったのがお前さん。
 伊藤が感染してるのは多少強引というかテストみたいなもんだ」
だが伊藤は強い。
おそらくルティアより。
それはウィルスと共に過ごした時間の差か。
だとしたら俺が伊藤を倒せるのは何年先だ…
「安心しろ。奴の身体もそろそろ限界だ。あとは研究部が何とかしてくれる手筈だ」

ふぅっと美佳が息を吐いて口を開いた。
「とりあえず、今はルティアを探しましょう。各自分かれて探し回って。
 直人は白水博士と一緒に。見つけたら……」
美佳は携帯に連絡することを考えていたが色々と面倒だと思ったようで黙り込んだ。
俺はパッとロケット花火を出した。
「信号弾」
そういって美佳もうなずいた。
「そういうことで。じゃぁ直人たちはこの周辺。
 私たちはもう少し遠くを探しましょう」
「「「了解」」」

俺はガッと飛んで大通りの向こう側の木に掴まると、その反動で空を舞った。