現実逃避超空間
作者/ 風そら

68
こっちは二人…どっちにくる?
金時は胸ポケットの拳銃二丁を静かに抜き取る。
「バッ」「!」
直人は金時から見て左側の電柱に身をひそめた。
なんとなくデイソンと共にサイドに分かれて手近な電柱の裏に回る。
狭い路地に緊張が張り詰める。
と、
『ズパンッッ』
「!」
弾が飛んできた。完全にこちらを狙っている。しかし、銃弾は電柱よりかすかに左にそれて、コンクリの壁に当たった。
距離は約10m。
狙っても当たらないのか、もしくはわざと外してるのか――
前者だとしたら直人もそう腕があるわけではなさそうだ。素人でも狙える距離だぞ。
弾丸はまた飛んできた。
しかし、電柱の裏に隠れている的には物理的に考えて当てるのは不可能だ。
再び弾丸は左の壁に跳ね返った。が――
ピッ、と右の頬に鋭い痛みが走った。触ってみるが血は付着しない。
金時は背筋が凍るのを感じた。
直人は金時を直接狙っているのではない。外れているわけでもない。
――跳弾で当ててきている――
普通、弾が壁に当たってどこにどう跳ねるかなんてわかるはずがない。弾の回転、空気抵抗、壁の質――
何をどう考えたってそれは一定ではない。
だが、直人はそれをしてきた。読んでいる、弾の動きを…
『ガンッ!!』再び直人の弾が壁に当たり、今度は金時の脇の下をかすめた。
これ以上は無理だ。相手が狂ってる。
金時は隣のデイソンにアイコンタクトをすると、顎で直人の方を指した。
デイソンは左手を上げると、反対の右手に巨大な棍棒を握りしめた。金時にはそれが何だか知っている。
一つ頷くと、デイソンは前に飛び出した。
***
「この次を右ね」
豪速で東京都内を突っ走る美佳は隣の咲子に問いかけた。
咲子は黙ってうなずく。と、
「ストップ!」
「!?」
咲子の左腕が美佳の顔の前にビッと置かれ、美佳は急停止した。
どうしたの、と聞こうとしたその直前、咲子は曲がろうとしていた角を指差した。
「銃口が見える」
「え?」
美佳は咲子が指差す数百メートル先の曲がり角を目を細めて見つめたが、何も見えない。
「何もないわよ」
「いや、ボクには見える」
咲子の表情は真剣極まりない。
咲子はハイドロキャノンを取り出した。
「おびき寄せたら撃てる」
「!、待って!」
飛び出そうとする咲子を制止して美佳は目を閉じた。
キィインと耳鳴りが響く。
次に目をあけると、美佳の眼球は数百メートル先に飛んでいた。
曲がり角で銃を持ちかまえている男が一人。
しかし、その向こう側にもCSAらしき男たちが3,4人、たばこを吸いながらこそこそ話していた。
美佳の視点は元に戻る。
「どうしたの?」
咲子は不思議そうな顔で美佳の目を覗き込んだ。
美佳は一つうなずいてから左の小道を指差した。
「敵が多すぎるわ、避けて通りましょう」
二人は静かに、俊敏に敵をかわすと、顔を見合わせた。
「ボク達、気が合いそうだね」
「そうみたいね」
二人は静かにほほ笑んだ。

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