現実逃避超空間

作者/ 風そら



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「んじゃ、好きにやらせてもらうぜ」
伊藤が言うと、ボッと姿を消し、気配は背後から感じられた。

「!!」
間一髪で伊藤のパンチをかわすと、その勢いで回し蹴りをかます。
がしかし、次に見たときには再び消え去り、遠くの地面に立っていた。

「ちくしょ、逃げんな!」
悠斗は両腕に雷を寄せ付けると、思いっきり前に突き出した。が――

「っ!『ガッ』
稲妻が迸るとともに、悠斗の身体は数メートル後ろに吹っ飛ばされた。
発射された稲妻は伊藤に直撃するも、その雷で相殺される。

TSウィルスによって生成されたエネルギーは相殺する。厄介な性質だ。


「使いこなせてねぇなぁ」
「いや、ここまで反動があるとは思わなかったんで…」
白水の笑いを一蹴(してない気もするが)すると、悠斗は再び伊藤に向かって走り出した。

「このっ……!!」
伊藤の目の前で跳ね上がり、そこから頭を殴りつけるが、フッと避けられ、どてん、と地面に頭から突っ込んだ。

「っ痛…、だから逃げんなって――」
その時、目の前に影が迫った。確認しなくても伊藤の物だとわかる。

「逃げねぇさ、君が死ぬまでな」

悠斗は察した。ただならぬ悪寒を。


『ズダアアアァァァァァァン!!!!!!』
思いっきり振り下ろされた伊藤の腕を、間一髪、両腕をクロスさせて止めた。
黒い稲妻が跳ね、火花が散った。

伊藤は再び消えると、今度は頭上に現れた。
踵落としされそうになるのを必死で横に転がって避けると、再び伊藤は目の前に現れる。

不意を突かれて硬直した瞬間、黒い火花が散る拳をまともに喰らった。
「んがっ!!」

首がもげそうになり、後ろに倒れこむ。
身にまとっている雷電は相殺してくれるがしかし、それに頼れば頼るほど、攻撃の手段は減っていく。


一方的な守りの状態で、戦いは進んだ。


外傷はほぼないが、まとった雷はすでに静電気化のごとくか細いものになっていた。
もう攻撃を受けることは許されない。

しかも、この状態で攻撃しても相殺されてしまうだけだ。
というか、元々こうなることは目に見えていた。

守れず、攻められず、残された手段は避けるか――











                  ――逃げる。


『オッ』
「!?」
油断を突かれて、伊藤の拳が飛んできた。
ほとんど反射でそれをよけると、バランスを崩してそのまま地面に倒れた。

咲子の水圧銃によって撒かれた水でまたさらに滑る。
が、その時違和感を覚えた。

水……滑る……か?

ちらりと咲子、そして美佳の方に目を向ける。
美佳はこちらを見つめると、ルティアの方を顎で指した。

その通りにそっちを見る。

ルティアは寝ていた。水たまりに人差し指を立てている。

そういえばルティアは電気が使えた。


電気……静電気……着火マン……







「!!」











            解けた――