現実逃避超空間
作者/ 風そら

20
「!!」
「わっ!!!」
不意に美佳は目を開けた。
なんにせよ10分ほど目を閉じたまま一切口をきかなかったのだ
「どうし――」
「今すぐここから出ないと。出来るだけ制御センターから離れたほうがいい」
直人の気遣いにも無反応で美佳は言った。
「ちょっと待てよ、どうしたんだよ?」
「説明は後、今は「いや、説明が先だ」」
倉庫から出ようとした美佳の前に直人が立ちはだかった。
「言ってくれ、どうしたんだ?」
直人の声が和らぐ
「…私たちは奴らに監視されてる」
美佳は口を開く
「それはみんな同じだ」
「いえ、それ以上に」
美佳の声は強かった。
「なぜわかる?」
「あたし、感染してるの。特殊能力が千里眼だから、それで見たの」
ちょっと待て、理解不能な事態が二つ発生してる
感染してる?千里眼で見た?
「博士のコンピュータからTPウィルスのデータを盗んで自分で作ったの」
「「作った???」」
何処で、どうやって?
「家の地下が博士のミニ実験室になってるのよ。ウィルスを作るだけの設備もあったし」
「それで?」
「自分で作って自分で打った、それで感染したの。その力で奴らが話してるのを見たの、今」
美佳はいかにも「早くしてくれ」と言っているかのようにいらいらと片足を揺らした
「なんて?」
「あたしがウィルスと抗ウィルスを持ってて危険だから厳重に監視しとけって、あと昨日のヴァーリーってやつは偽物って」
な…トッドが偽物?確かTPウィルスの感染者だったはず…
「なるほどな、監視の対象はあんただけか?」
直人が腕組みしながら聞いた
「いや、三人とも。二人は実力を持ってるからって…」
なるほど…『ゲーム』で難易度を上げるってか…
「そうか、それならとっとと行こうじゃねぇか。
ずっとここにとどまってるよりはましだ。
ここは制御センターに近いらしいし」
俺は立ち上がると出口に向かって歩き始めた。
直人は止めない。
「そうだな…まぁ出たほうがいいのは確かだ。
どこ行くのかは知らんがな」
直人もそういうと、倉庫を後にした。
「あ、そういえば…」
美佳が思い出すようにして俺らを止めた
「?」
「これのことも説明しておくべきだと思って…」
美佳はそういうと、大鎌を手にして、コンクリの地面にそれを突き刺した
床に、ちょうど工事の時にドリルで穴をあけたような感じで傷が入った。
「実はこれ…「幻影鎌だろ」」
美佳を制して直人が言った
???幻影鎌?
「何で知ってるの!?」
美佳が驚いた顔を見せる。
直人はニヤリと笑った
「『幻影の七つ武器』、悪魔の力でその者の魂を吸い取ると言われた伝説の武器。
俺の親父はガンマニアだったからな。その中の『幻影銃』がほしかったらしい。
小さいころからその話ばっか聞かされててな…」
直人が倉庫の天井を見上げ、懐かしんだ
「物知りなのね… でもそれは伝説の話。これはその七つ武器に似せてCSAが作ったものなの」
「CSAが?」
「えぇ、こいつの刃では人が切れない、でも、切られたところからTPウィルスは死滅する。
抗ウィルス薬はウィルスの増殖を止めるものだけど、これは根本的にTPウィルスを消滅させるもの。
ほんのちょっと切っただけでも、数時間後にはもう感染者じゃなくなる。」
伝説に似せて作られたウィルス抹消武器か…
ロマンチックなテロリストだぜ
「なるほどな、人は切れないけどウィルスは殺せるか…」
「面白い、行こうぜ! どっちにしろ正午には『ゲーム』が始まる。
今のうち逃げておいて損はねぇ」
直人がそういうと俺らは薄暗い倉庫を後にした

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