現実逃避超空間

作者/ 風そら



55



金時の手中で美しく輝くサバイバルナイフは、朱銀色に染まっていた。




「てっ、めぇ――」
俺はテニスボール大に炎を丸めるとそれを投げつけた。


「滅却弾!!」


『ヴォ―』

金時は手に持つ刃でそれを受け止めると炎はナイフを取り巻いた。



「クソが!」
直人は拳銃を金時に向け、それを放つ。


が、しかし、暗すぎるため照準が合わず弾は外れた。



「美佳っ」
その間に、倒れこむ美佳に近づく。


美佳は何も口にしなかった。




俺は服の袖を破ると、それを美佳の左腕に巻きつけて縛った。

正当の処置をしたかどうかは分からなかったが、それしかしようがなかった。








「――大じょ…ぶ…」
美佳は声を振り絞った。

俺はそれを手で制すると咲子の隣まで美佳を抱き上げ、寝かせた。


咲子は相変わらずの熟睡振りである。





戻ると、青白い照明に照らされて、銃使い二人は獣のような目つきで睨み合っていた。














「俺の用は済んだ。帰る」
しばらくして金時が口を開き、くるりと後ろに向かって歩き出した。

が、直人がそれを止めた。

「待てよ。
 まさか美佳狙いだったんじゃねぇだろうな」

直人は今度こそという目つきで銃口を金時の後頭部に向ける。



金時はゆっくりと顔だけをこちらに向けた
「だとしたらなんだ。どちらにしろ俺は暇をつぶせたのならそれでいい」



そのまま金時は帰るはずだった。



しかし、俺の喉からは声が飛び出す。







「お前ら……なんでそこまでルティアを狙う?」



金時は硬直した。




そして―――笑った。





「地球は――

















 あと四年で宇宙の屑と化す」

「「…?」」


理解不能。

いや、理解はできるのだがそれを受け入れることができない。
それは、どういう意味なのか。


沈黙を割いたのは再び金時だった。



「隕石だ。
 直径800kmを超える巨大隕石が太平洋に直撃するんだ、面白いだろ?

 世界各国首脳はこの事実を2080年に知った。
 当初は隕石の襲来予想時期が200年後。誰も、何も言わなかった。

 しかし、時がたつにつれその予想は覆り、最終的な予想として2099年、21世紀の末期に落下するとされた。


 そこで首脳たちは大慌て。
 公表するのはほぼ不可能であり、速やかに、かつ穏健に事を済ませる必要があった。

 
 そこで、日本の藤原博士に目を付けた。
 博士は以前から精神の永久的な離脱と還元の研究をしていた。


 政府は藤原博士にこれを伝え、地球が滅ぶ瞬間まで人々の生活が変わることのないよう、
 『夢』の世界である【SPACE】を作り出した。
 アンタらも知ってるように、ここでは好きなものがいくらでも手に入る。
 博士の【SPACDE】での最終的な目標は『空間』の創造。


 だが、【SPACE】には保存できる容量に限界がある。
 つまり地球すべてを包み込むには小さすぎるんだ。
 そして博士はここから裏世界を見つけ出す。

 裏世界は容量無限で、しかも【SPACE】とは違い好きなものの創造はできない。
 つまり、ここで貨幣の増加などで経済が混乱することはない。


 しかし、裏世界には一つだけ弱点がある。
 それは、【SPACE】から裏世界への転送は容易だが、
 現実世界から直接裏世界へと転送するには「変換機」を使った、膨大なエネルギーが必要だ。

 だが、変換機は開発当初、「危険すぎる」と、日本政府がすべて押収してしまった。
 ここで、博士が「それは必要だ!」と強く主張することもできたが、それをすると計画自体が倒れる危険がある。




 そこで博士は俺たち、「CSA」を作り、トップの座に居座った」



「――!!」






意味が分からない。


博士がCSAの創設者であり、
しかもそのボス――――――――





立ちくらみがした。








「そうして、CSAは【SPACE】占領、人質片手に変換機を迫り、その電源を確保すべくルティアを求める」

「ルティアとは何の関係が」
直人が口を開いた。


「あれ?知らないの?
 ルティアはあらゆるエネルギーを吸収、変換、放出自由なんだよ。
 特に著しいのは電気。

 つまり、何か大きなエネルギーがあればそれをルティアを使って変換、【SPACE】内の内部出力機に出せば、
 あとは俺たちは個人転送機でバイバイ。

 アンタら人質はこの【SPACE】に置き去り、ってわけ」




情報量が多すぎる。





俺、と直人はその場に立ち尽くした。





「じゃ、楽しみにしてるよ」



金時はそういうと、闇の中に消えて行った。