現実逃避超空間
作者/ 風そら

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【闇戦】 at 品川駅西口 PM 10:00
金時は左右の手に銃を構えた。
辺りは静まり返り、物音一つしない。
平時はライトがビカビカ光っているはずだが、制御センターが乗っ取られているため光はほとんどない。
頼りになるのは街灯ぐらい。
辺りのビルは完全に消灯している。
「じゃ、早速」
金時の声と共に銃口は…
俺を向いた。
「え?いや、ちょっ」
『ズガンッ』
沈黙
俺は何が起きたかさっぱりわからないのだが、どうやら弾はよけたらしい。
TPウィルスは意識的行動以上に、反射のほうがすごいようだ。
「ちっ」
直人は引き金に手をかけた。が、
『カッ』
美佳が直人の銃を蹴り上げる。
「!?」
直人は困惑の表情を見せた。
「右腕の痛み、引いてないでしょ?」
美佳はそのままくるりと後ろに向かうとスタスタと歩いて行った。
俺はデイソンとの戦闘を思い出した。
あの時直人は金時のショットを食らっていた。
直人は何も言わず、渋々といった様子で駅に向かって歩き出した。
と、
『ズガシュッ!』「!?」
直人はバッと金時に振り向くと銃弾を放った。
が、金時は一瞬の判断でしゃがみギリギリでそれをかわす。
「確かに今の右手の状態で銃を撃つことはリスクを伴う。
だが、俺はもう一本手があるんだよ」
金時は笑った。
「左手しかないアンタと、手が二つある俺とでは、どちらが強いのかな?」
「俺だ」
直人は即答した。
「なっ…」
金時は額に血管を浮き出させると両腕を前に突出した。
まずいっ!
俺は腕に炎を巻きつけると、思いっきり振りかぶってそれを鞭のように振った。
フロッグカット
斬焔剣――
ビッ、と空を切る音と共に、金時は銃を取り落した。
「っ!」
金時は指を切ったようだったが、あまり痛そうではない。
炎の質が甘いのか。
金時は素早く銃をとろうとするが、それを美佳が蹴り飛ばす。
その時、金時は手に光る何かを持っていた。
ちょうど街灯が美佳で隠れてよく見えないが、金時はそれを美佳とは反対の方に向けた。
「美佳あぶねッ!」
「!!」
『――――』
時すでに遅く、深々と光るそれは美佳の左腕を貫いた。
辺りに言葉とはならない悲鳴が響く。
直人が叫んだ。
美佳はその場にガクリと膝をおとし、金時はこちらを振り向いた。
「ぬるいねぇ、アンタら」

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