現実逃避超空間
作者/ 風そら

56
金時が去った後も、俺たちはしばらくそこに佇んでいた。
やがて、直人が美佳の方に向かって駆け出す。俺もその後を追った。
「大丈夫か?」
直人が声をかけるが、返事はなかった。息はしているようなので、寝てるか気絶してるか…
さっきの話は聞いたのだろうか。
「どうする?これから」
俺は直人に聞いた。直人は、「さぁな」と一蹴すると、自分も屋根の下へと入り、寝袋を用意した。
「また明日考えるさ」という声を聴いたのは、俺がドラム缶を引っぱている時だった。
直人はその不可解な音に上半身を持ち上げ、「うるさい」とでも言いたそうな顔をした。
「何してんだ?」
「見ろよ」
俺はドラム缶に寄りかかり、直人に声をかけた。
何か入っているのか、と直人が起き上がり中をのぞくが、何も入っていない。
ますます意味が分からないような顔をする直人には構わず、俺は火をともした。
手の上でゆらゆらと幻想的に輝く金の炎を、俺は流し込むようにドラム缶の中に入れた。
ちょうど、高熱に溶けた鉄が炉から取り出されるような感じである。
見る見るうちにドラム缶は炎でいっぱいとなり、俺は流し込むのをやめた。
「何をするつもりだ?」
直人は両手をドラム缶のふちにかけて聞いた。
「伊藤を倒す」
俺はそういってふたを取り出すと、ドラム缶にバゴンとはめた。
さ、寝よう、と俺が戻ると、直人もつられて歩き出した。
よほど違和感を感じるようだが、それをしつこく口に出さないのが直人だ。
明日の朝になればわかるさ、とだけ言って俺は眠りについた。
【SPACE】で明かす、二回目の夜。
『ゲーム』一日目、終了――

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