現実逃避超空間

作者/ 風そら



24



俺たちが交差点を左に曲がった時には、すでに美佳がスポーツカーを止めていた。

だが、人が乗っている気配はない。

「誰かいる?」
フロントガラスを覗き込んでいる美佳に尋ねる。
美佳は首を振った。

「乗捨てか?」
直人が頭をかきながら言った。

いや、乗捨てはもうちょっと違う意味だろ。

「直人って運転できるの?」
答えは分かっているが一応聞く。

「アホ」



これは予想しなかった。


おいおい、と直人に突っ込もうとしたときだった。

「そこ、私の車に不用意に触らないでくれるか?」


反射で声のしたほう…右のビル上方を見上げる。


「なっ!!」
思わず声を上げる。

無理はない

いかにもテロリスト、という女がビル10階ほどの窓の「縁」の部分に、何にも掴まらずに立っているのである。


感染者…   
脳のしわが強くなるのが分かった。

「何者」

呼びかけたのは美佳。
スポーツカーから手を離し、立てかけてある幻影鎌を手にする。

直人の手にも拳銃が握られる。


お、俺は…?どうする?ハンマーか???


そわそわしていると空気の流れで女が落ちてくるのが分かった。


着地。


無傷。


間違いない。

ピンクっぽい色の髪、握っている重みのある剣。
色々じっくり考え込んでいると、女は口を開いた。

「私はルティア・ヴィレイトリム。車に乗りたいんだ、どいてくれ」


ルティアとかいうその女は、スタスタと車に向かうと、車に乗り込もうとした。

「ちょっと待てよ、自己紹介で終わっちゃ困るんだ。姉ちゃん、感染者だろ?」

直人は拳銃をルティアの後頭部に向ける。
ルティアはこっちを振り向いた。

「ウィルスのことを知っているのか。見たところその子もそれみたいだが」
ルティアは美佳をあごで示す。

「ご紹介どうも。 あんた、テロリストでしょ」
美佳は強く言い返した。

「あいにくだが私はテロリストじゃない」
ルティアは平然として鍵をポケットから取り出しながら言った。

「じゃぁどうやって」
俺は一歩前に進み出た。

「あいつらのポケットに入ってたんだよ、ウィルスとそのデータが。
 すまないが私はこれで失礼する。北へ向かってるのでね」

「じゃぁ、俺らも一緒に…」
ルティアは車に乗り込んだ。
「その余裕はない。自分らで何とかしてくれ」

が、美佳が車の前に幻影鎌をつきたてた。

「お願いします。乗せてください。あたしたち、もう仲間も同然でしょう?」

ルティアは美佳を見もしない。
「仲間?すまないが私の辞書には、出会って30秒の赤の他人が仲間とは書かれていない」


なんて野郎だ…