現実逃避超空間
作者/ 風そら

78
『ツパパッ』
残りわずかの雷を手のひらにかき集め、悠斗は思いっきり腕を引いた。
そしてそのまま伊藤に向かって突っ込んでいく。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおっ!!!」
伊藤は身を構えることもなく、その猪突猛進の様を眺めている。が――
「!?」
伊藤は目を見開いた。
悠斗は、伊藤の一歩手前で―― 跳躍した。
とん、と地面に着地すると、止まることなく咲子の元へと駆けた。
「ぬおっ!」
背中から抱きかかえるようにして戦場から離脱させると、美佳の方も見た。
そして駆ける。
「、 来ないで!!!」
悠斗の動きが静止した。その一瞬で、美佳はルティアに目線を移す。
ルティアはパチリと指先に電流をほとばしらせた。
――そして、すべてが決まった。
美佳の策略によって散布された大量の油は、太陽に照らされる大都会の一角を丸ごと破壊した。
視界を覆う豪炎と黒煙。
その中で、今、美佳とルティアは横たわっている。
「っ!!!」
悠斗は足を踏み込み、炎に突っ込む。
が、その脚は、咲子によって固定された。
重心が傾いた悠斗は、そのまま前のめりに倒れこむ。
悠斗は顔をあげ、燃え盛る炎を見た。胸の奥底から激しい衝動が込み上げる。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
声にならない叫びをあげ、悠斗は失神する。
*
ビルの屋上で、伊藤は一息ついた。
自分の足の下からは、もはや形容できないほどの煙が込み上げ、伊藤を包んでいる。
がしかし、せき込むことなく、伊藤は口を開いた。
「……負けだよ、ターゲットをやられちまったからな」
伊藤は自分の頬をすっと撫でた。
明らかに皮膚の感触が薄れ、そしてその指先を見つめる。
――白い灰がついていた。
伊藤はその灰が炎によるものでないことを知っている。
リミット
「――寿命だよ、候補君」
伊藤は分かっていた。
悠斗ほど適合率が高くないことを。
鬼嶋の言うことは絶対だということを。
それを無視して戦うことが自分の首を絞めているということを。
自分を超えることが死を呼んでいることを。
そしてなにより、相羽=藤原香奈の逃走が全てを語っていることを。
「――こういう消え方は随分と心残りなもんだな」
大量の灰が、赤い空に舞った。
CSA人質管理部部長 伊藤俊介
Tエネルギーに対する極度の抵抗反応により死亡

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