現実逃避超空間

作者/ 風そら



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「さーてと、これからどうすんの?」
一通り、自己紹介と簡単な状況説明を終わらせた後、話は本題に入った。
「やつらはルティアを欲しがっているらしい。
 だが俺はあいつがそう簡単に捕まるとは思わない」
直人は腕を組んで言った。
確かに、初日、ビルの上から飛んできたことを考えると俺らと身体能力は比べ物にならない。

「超能力探知機の方はまだ出てないの?」
咲子が口を開いた。
「サキコでいいよ」
あ、はい、すみません。ってお前もテレパシーか!
あ、そういうことか、みんな揃って俺をいじめようって作戦か、これは。
「まだね」
美佳がパソコンを確認しながら言った。
「しょうがねぇ。ここは各自分かれてルティアを探す。いいか?」
直人は全員と目を合わせた。だが、
「だからさぁ、ルティア捕まえてなんか意味あんのかって」
「まずはCSAの計画阻止。
 ルティアがこっちにいるだけで戦力にもなるし奴らには渡らない」
「でも俺らと居ようが居まいが関係なくね?」

はぁっ、と美佳がため息をついた。
「ルティアを探せばそこから裏世界の道も開くかもしれないでしょ?
 もともとルティアはCSAにいたんだし」
「え、そうなの?」

周りから白い眼で見られている気がした。
(((さっき言っただろ・・・・)))
  (はい、すいません・・・・)

「とにかく、今はルティアを探すことだけに集中し「なーにー!?」」
「「「「!?」」」」
茂みの中から声がし、ガサガサという音と共に50ぐらいのおっさんが出てきた。
しかし、その顔はどこかで見たことがあるような無いような……って、
「あ、おっさん昨日の!」
「ん?わしお前さんと会ったっけ?」
昨日サキコを探すときにいた酔っ払い。
薄汚れた白衣に色あせたジーンズ、少々白髪の混じった髪とひげ。
そっくり。てか同じ。
「わし」などという一人称を使うには少々早い。
「知ってるの?」
美佳が聞いた。
「あぁ、昨日ちょっと」
「すまんなぁ、飲んでるときは覚えが悪くて」
いや、それは誰でもそうだよ。
おっさんは服に付いた葉っぱやら枝を払い落としながら言った。

「わしは白水玄三郎、藤原博士の同期だ」
「しらみず?げんさぶろう?はかせのどうき?」
「いちいち復唱すんな馬鹿」
直人の拳が落ちてきた。



***



「藤原博士の同期というのは?」
美佳が聞いた。
「ん?あれ、どっかで見たことあると思ったらあいつの娘さんか」
そうかそうかと笑いながら、白水は胸ポケットから何か取り出した。
「ほら、わしとあいつ。6年前の写真だ」
そういって白水が見せたのは、なにやら研究所らしき建物の前に白水と藤原博士(顔はあまり見たことがないが)が並んで笑っている写真で、少し色あせているのが分かった。

「この後ろの建物はなんなんですか?」
写真を覗き込んでいた直人が顔をあげて聞いた。白水は鼻を高くして誇らしげに答えた。
「分からんが、きっとすげぇ研究所だぜこれは」
直人の開いた口がふさがらない。
白水は多分、酒がどうこうではなく単純に覚えが悪いんだと思う。
「わしとあいつはここで6年、地球の為に毎日過ごしたのだ」
「!まさかあなたもCSAの!?」
俺は声を張り上げた。が、白水の顔は一気に暗くなる。
「何、知っていたのか。『え~!?地球の為に~!?おじさんすごーい!』とか言ってくれると思ってたんだけどなぁ」

あぁ、その発想がすごいよ

白水は「座りたい」と言って階段の方に駆けて行った。俺たちもその後を追う。
「うぉ!? なんだこれ、何入ってんだ?」
白水はドラム缶を指差して大声を張り上げた。これでよく地球の為にとか言えるものだ。
見ていいか?とふたを外しにかかっている白水に「いいんですけど…」と声をかけるが、

さっきより結構へこんでいる。
いつからこうなったか気づきもしなかったが、側面が少しだけ押しつぶされたようになっている。
直人と目を合わせて首をかしげたとき、

『ボガンッ!!!!』
「わおっ!!」

「なっ…」
美佳が絶句した。ふたが吹き飛んだドラム缶から白い煙が上がったのだ。
「ななななななんだ、わし何かしたか」
音と共に地面に倒れた白水が恐る恐る起き上がりながら言った。
みんなでゆっくりとドラム缶に近づき、そーっと中を覗き込む、が。

「…さっきと変わってねーじゃん」
中には、先ほどと同様、濃いピンク色の炎がゆらゆらとしていた。
「これ何?」
美佳が訝しげな顔をして聞いた。俺は手のひらに黄色の火球を出す。
「これを一晩漬けたの」
「な、お前さん、まさか……」
白水が絶句する。サキコが首をかしげた。
「ここにいてはまずい、もう少し人目のない所に……」
ここにも人目はないのだが、カメラのことを言っているのが分かった。

俺たちは白水に連れられて、駅を後にした。











ドラム缶を抱えて。