現実逃避超空間

作者/ 風そら



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現実世界 CSA極秘本部――



「では、臨時会議を始める」
一人のサングラスを掛けた小太りの男が言った。

長方形の形に配列された長テーブルに、それぞれの部や課のトップが顔を連ねている。

「しかし伊藤さんがまだですが…」
一人の男が言った。

「あぁ、構わん。あいつとは後日また話しあう」

「議長、なぜ私や金時などの下っ端がこの会議に?」
発言したのはデイソンだった。

「君達は候補の感染現場を目撃したそうだな。それに関して説明をしてもらう」
「議長、俺の戦闘シーン全面カットされたんすけど…」

「言葉を慎め金時。会議が終わったら執行室へ来い」
いかにも厳格な女性が言った。

「……はい…」


「…では本題に入る。今日、伊藤が交渉部の役員を一名殺害した。
 これは決して素通りならぬ一件ではあるが、これと『ゲーム』の実行により日本政府がようやく腰を上げた」

「皮肉な事だ」
交渉部部長がうすら笑った。

「日本政府はだいぶ世間から批判を受けている。このままでは国が終わる。
 しかし、コンバーターを渡すには条件があると言って来ている」

「人質の解放ですか」
「その通りだ。伊藤には申し訳ないが一度人質を全開放し「そうはいかないぜ」」

「「「!?」」」

部屋がざわめきに包まれた。

どこから現れたかはわからない。しかしそこに存在する伊藤がいた。

「おやおや、伊藤君。部屋に入る時ぐらいはノックをしたらどうだ」
「つまんねぇ事言ってんなよ。人質の解放は許さねぇぜ。なんせ俺達の餌だからな」

「ふざけたことを言うなっ!!」

一人の男が怒鳴った。


「伊藤君、それでは計画が進まないのだよ」
「計画なんて関係ないぜ。コンバーター盗めばいい話じゃないか」

「バカか」

「では、君のお気に入りだけ残しておくというのは?」
「一人や二人残したって意味ねぇだろ」

しばらく沈黙が続いた。


「ま、そこんとこだけよーく覚えておきな。俺は仕事があるんで、じゃ」

伊藤はそう言うと消えた。


「やれやれ、困ったお人だな君達の統領は」
「ああいう人なんです」
デイソンは苦笑いした。

「では、伊藤には後で話を付けることにして、今はコンバーターを獲ったとしてその後を考えよう」


「作戦部から数名ずつ、世界の主な国に送りました。準備は整っています」
「まずはアメリカですか…」

「そうなるな。カリフォルニアの一角に一つ、ニューヨークに一つだ」
「起動は一斉ですか」

「はい、【SPACE】の内部出力機の準備さえ整えばあとは…」


「候補待ち…ですな」


「とりあえずお二人の話を聞きましょう」

人々の視線は金時とデイソンに集められた。


「我々は感染場面しか立ち会うことはできませんでしたが、それでも傷の回復速度は驚異的です。
 大量のエネルギーを産出するに当たっては問題ないと思われます」
「デイソン、俺にもしゃべらせて…」

「では後はルティア君ですな」
「無視っすか…」
金時は沈んだ。

「脱走してからというものヘルメットのIDを解除した模様です。
 また設置した監視カメラの大半が何者かに破壊されています。
 このままでは捜索は困難です」

「なるほど… 早急に対策を練る必要があるな」
「なにせ彼女がいなければ計画は成り立ちませんからなぁ」

「餌を使っておびき出すというのは?」
「何を使って」



「あの男か」

「居所はつかめたのか」
「それが、彼女同様まだ……」


再び部屋に沈黙が流れる。


「仕方がない。次の定例会議までは時間がある。各自、仕事に戻ってくれ」